藤ヶ谷太輔、自己肯定感を高める方法は「他人目線を軸にするのではなく、自分の軸を持つこと」<傲慢と善良>
男女それぞれの視点でリアルな恋愛観を描く辻村深月の小説『傲慢と善良』が映画化。藤ヶ谷太輔と奈緒のW主演で、婚活アプリで知り合ったカップルを演じる。なかなか結婚に踏み切れない“傲慢”な架(藤ヶ谷)と、親の敷いたレールの上で“善良”に生きてきた真実(奈緒)の恋の行方を描くヒューマンストーリー。原作の大ファンという藤ヶ谷に本作の魅力を語ってもらった。 【写真】電話をする姿も絵になる藤ヶ谷太輔 ■男女で感想が違うところも面白い作品 ――藤ヶ谷さんにとって、原作の『傲慢と善良』は自分の人生の中で1番好きな小説だそうですね。原作を読まれて、心惹かれたポイントを教えてください。 恋人がある日、突然目の前から消えるというミステリー要素のある恋愛物語なのですが、友人や家族との人間関係も描かれ、いろんな要素が詰まっているんです。初めて読んだとき、すごく面白い作品に出会えたなと思いました。 僕が演じた架は、恋人の真実からストーカーの相談をされるんですけど、そこにはある嘘が隠されていて。僕も架と一緒で、そういう女性の嘘などは見抜けないと思います。女性スタッフさんは今作を読んで、序盤で真実が嘘をついたと分かったけど、男性のスタッフさんは、女性の嘘は見抜けないと皆さんおっしゃっていて。男女で感想が違うところも面白い作品です。 ――友人たちに真実と結婚したい気持ちはどれくらいかと聞かれた架が「70%」と答えたことに対し、「真実は70点」と彼女に点数をつけたも同然だと指摘されるという印象的なシーンがありますが、その点数の受け止め方の解釈が男女で変わりそうですよね。 僕は女性に点数なんて付けないですよ?(笑)。それでも、70点っていう点数は、男性から見るとかなり高い点数だと思うんですよ。でも、女性のスタッフさんたちに聞いたら、「自分に70点って点数を付けられるくらいなら、0点のほうがいい」って70点の捉え方が男女でまるで違う。この1冊でいろんな議論ができる作品なので、読み終わった後に、誰かに話したくなるパワーのある作品だなと思いました。それは映画も同様になったらいいですね。 ――作品に共感できる部分が多かったですか? そうですね。自分の言いたいことを言語化してくれている作品だと思いました。僕は自分の欲しいものがしっかり分かっている人や、ビジョンを持っている人ってすてきだなと思うんですけど、そういったことが辻村さんの台詞にも描かれています。 例えば、身にまとうファッションは、本当に欲しいから買っているのならいいけど、流行っているから持ってないと周りに置いていかれると思って買う場合もあるわけじゃないですか。周りからどう思われるかで物事を選ぶのではなく、自分の欲しいものが本当に分かっている人ってカッコいい。もちろんファッションだけでなく、趣味など、いろいろなことにおいてそうだなと思います。 ――この作品で描かれる恋愛観についてはどう思いましたか。 「自分の周りには全然いい人、いないな」という会話を耳にすることってあるじゃないですか。「なんで自分に合う人と出会えないんだろう。私なんか全然、あの人と釣り合わないかも」みたいなことを言っている人がいると、『傲慢と善良』に出会ってからは、ものすごく大きな声で「私、自己評価は低いけど、自己愛高いんだよね」って言っているようなものだなと思うようになりましたね(笑)。 まさに真実がそんなことを思う場面が出てきますから。架と真実の出会いもマッチングアプリがきっかけですし、2015年に描かれた作品なのに今の時代にぴったり。原作を読んでから、ぜひ映画を観ていただきたいです。 ■田舎の駅前で話し合いがヒートアップ「2時間も喋っていました」 ――共演者の皆さんとはこの作品をどのような空気感で創り上げていきましたか? 監督や奈緒ちゃんとクランクイン前にいろいろと喋りたいことがたくさんあったので、まずご飯を食べに行きました。その時、この作品をきっかけに自然とお互いの恋愛感や結婚観を話し合いました。監督から奥さまとの出会いの話やお子さんができた時の気持ちも聞きました。 撮影中もとにかくチームでいっぱい話しましたね。この作品を大切にしている人たちの集まりなので、「このシーン、私はこう思うんだよね」とか、「いや、俺はこう思った」みたいな熱いディスカッションを繰り広げました。 ――話し合いの中で生まれたシーンもあったんでしょうか。 ラストシーンの演出は、決まってなかったんです。ロケ地の佐賀には決まってない状態で行って。最後のシーンを撮る前の日の夜、撮影が終わった後に「ちょっと話しましょう」って監督、スタッフさんたちと、着地点の話し合いをしました。田舎の駅前でかなりヒートアップしましたね(笑)。 ――ラストシーンは注目ですね。 駅前で2時間も喋っていましたから。結果的にすごく印象に残るラストシーンになりました。夕日が沈む瞬間の、もう今しかないってタイミングを狙って撮影したので、ライブ感がすごいです(笑)。 ――マジックアワーを狙ったんですね。 もし僕がNGを出していたら、夕陽が沈んでしまって、その日中に撮れなかったと思います。ラストシーンの撮影の前は、結構ゆとりあるスケジュールになっていたんです。でも、その前のシーンが結構早くに終わって、夕陽のタイミングまでにはまだ時間があるなっていうことで、歩いてみんなで道の駅へ行って、お土産買ったり、ソフトクリームや牡蠣や海鮮を食べたり。 3時間くらい道の駅で過ごしていたので、夕陽のシーンが撮れなかったら、道の駅行っている場合じゃなかったってことになりかねないじゃないですか(笑)。結構、プレッシャーを感じながら、タイムリミットがある中、1発で撮りました。 ■自身のインスタグラムは「まったく流行りを意識してない」 ――先ほど、“自己評価が低いわり自己愛が強い女性”の話が出てきましたが、藤ヶ谷さんは自分に自信がもてない人が自己肯定感を高めるにはどうしたらいいと思いますか? 自己肯定感を高める方法…。「私なんか」っていう言葉を発しないことですかね。人と比べないことが大事だと思います。どうしても隣の芝生は青く見えるものでしょうけど。今回の撮影現場でも話題にのぼったのが、劇中であげている真実のSNS。 実際の生活とインスタに載せている写真にキャップがあるんですよ。真実のようにSNSの世界では理想の自分を演じている人もいるかもしれない。それって他人の目線を意識している生き方で、本当の自分はどうなのって思いませんか? ――そういう人は多いと思います。 もちろんトレンドを取り入れるとフォロワー数が伸びるとか、いろいろ計算することも必要ですが、人にどう見られるかではなく、自分が本当に好きなものを大切にする生き方が大事だなと自分は思います。僕のインスタを見てもらえば分かると思いますが、まったく流行りを意識してないですからね(笑)。 僕は自分軸でいたいから、自分が好きなものを載せたい。それが自分らしく映ればいいのかなって思います。他人目線を軸にするのではなく、自分の軸を持つことが自己肯定感を高めることにつながるのかもしれないですね。 取材・文/福田恵子