東京五輪でのポスト吉田沙保里に19歳・向田が名乗り!
試合の後半になるほど守ってばかりいた向田の姿勢は、ふだん至学館大学で指導する栄和人強化部長からも指摘されている。12月上旬にハンガリーで開催された、五輪で実施しない階級のみによる世界選手権で、向田は一回戦から決勝まですべての試合をテクニカルフォールで下し無失点で女子55kg級の世界チャンピオンになった。世界一になったにも関わらず向田の試合は本当に強い選手のものではないと手厳しく評し、決勝戦前に本人にも注意を与えていた。 「相手をバラバラにして世界選手権で優勝した選手が、こんなに攻めないようではいけない。点差があろうがなかろうが、最後の30秒は攻めろと言ってきたが、できなかった。練習でも、最後の30秒はとにかく攻める練習をしろと言っている。ここで逆転しなくちゃ負けだというときに攻める勇気を、常に持っている選手にならないといけない。そして、その勇気ある動きが出来るかどうかは訓練次第。これから、勇気をもって攻める選手になるよう徹底的に練習させます」 吉田沙保里が君臨し続けた階級で、2020年東京五輪代表を争うのは誰なのか。今回優勝した向田なのか、敗れたとはいえ負傷から復帰したばかりのテクニシャン宮原なのか。吉田沙保里が育った一志ジュニア教室でレスリングを始めた奥野春菜(17、三重・久居高)は、今回、向田から速いタックルで2得点をあげている。周囲の選手に比べてまだほっそりした体つきだが、4月から至学館大学へ進むことが決まっており「うちで鍛えれば強くなるよ」(栄強化部長)と、ポテンシャルの高さはお墨付きだ。 「48kg級もそうだが、53kg級にも若いよい選手が育ってきている。切磋琢磨して、強い日本女子を続けられる見込みがたちました。これから、楽しみにしてください」(栄強化部長) 例年通りなら、2017年世界選手権代表は今回の全日本選手権の結果と、来年の明治杯前日本選抜選手権の結果によって選考される。リオ五輪前から栄強化部長が「2017年日本代表は、ベテラン吉田が現役続行するかどうかとは関わりなく、若手中心に編成する」との宣言通り、25歳未満の選手たちを中心とした激戦が始まる。 2020年を前にして、吉田沙保里は彼女たちの壁として再び立ちはだかるのだろうか。最近の吉田の試合結果や内容を振り返ると、おそらく、これまでのように簡単にはいかないだろう。 実際、リオ五輪を前にして、吉田と若手との差は少しずつ縮まり始めていた。国内の試合では無失点で圧勝が当たり前だったのに、2015年全日本選抜では高校生だった向田に全日本選抜で2失点、決勝でも入江ななみ(21、九州共立大、今大会は欠場)に得点を奪われた。女王の座はまだ明け渡さないけれど、絶対的ポジションが変わりつつあると知らしめた瞬間だった。 「外国人選手相手よりも、日本人選手との試合のほうが、すごくやりづらいです。手の内も知られているし、すごく研究されるから」と向田が言うように、吉田に対する研究もかなり積み上がっている。そのノウハウを身につけ、「沙保里さんのことは尊敬して憧れていますが、勝たないといけない相手」と言い続ける向田のように、相手が金メダリストであろうと恐れない世代が2020東京五輪を目指している。 「東京五輪は私が出る五輪」と断言する選手ばかりがそろう、現在の20歳前後の選手たち、いわば東京五輪世代の向上心は目を見張るものがある。12年前、吉田自身が必死で先輩レスラーを乗り越えたように東京五輪世代が成長したとき、日本の女子レスリングはまた、大きな歴史の転換点を迎えることになりそうだ。 (文責・横森綾/フリーライター)