東京同棲生活1年。バトルの末の2人のルールは
【&w連載】東京の台所2
〈住人プロフィール〉 28歳(会社員・女性) 賃貸マンション・1LDK・丸ノ内線 新中野駅・中野区 入居1年・築年数1年・恋人(29歳・会社員・男性)と2人暮らし 【画像】もっと写真を見る(27枚) 「同棲(どうせい)している人があまり出てこないので、たまにはおもしろいかなあと思って」 彼女はこの連載への応募動機を語った。 ワンフロア1世帯の3階建て賃貸物件は新築で、昨年入居した。白い壁に無垢(むく)材ふうフローリング。窓が多く、台所からリビングの隅々まで明るい。 どことなく空間から初々しさが感じられるのは、東京での同棲生活が1年と聞いたからだろうか。 台所には、ふたりの趣味だという山登り用の調理器具がいくつもあった。 たしかに、同棲カップルは久しぶりで、こちらも気持ちが弾む。
茶碗の洗い方一つも、人ごとに違う
1歳上の彼とは、大学2年から付き合い始めた。 ふたりとも東京の会社に就職、彼女は3年目で札幌転勤に。その1年後、彼が仕事を辞めて札幌に移り住む。 「彼は転職をしながらキャリアを作っていく志向で、土地や特定の企業に執着がない。札幌転勤が決まってから私が、半分冗談半分本気で“引っ越してきてよー”と何回か言っていたら、乗り気になったという感じです。一緒に住めるのは嬉(うれ)しかったですね。新しい土地で行きたい場所がたくさんあったので。柔軟な人でよかったなと」 ところが、初めての同棲は、予想外にぶつかり合うことの連続だった。 「自分の台所仕事や家事のやり方と違うことにフラストレーションが溜(た)まった。たぶん彼もそうだったと思います」 たとえば、彼は皿は洗うが、ガスコンロの掃除までは気が及ばない。フライパンが使いっぱなしのこともある。 最初は、彼が洗い終えたあと、コンロ周りなどやり直すこともあった。当然、彼も愉快ではなく、言い合いになる。 「いっそ私が全部やったほうがいいのかなとも思ったけれど、それは自分が疲れるだけ。だったら私が目をつぶるしかないなと、徐々に思うようになりました」 バイトをしている彼のほうが、早く帰宅。家事も料理も多く担っている。やってもらうならどんな方法であれ、最後まで任せないと相手も気持ち良くないに違いない。 「彼は基本鷹揚(おうよう)で、人のルールに合わせられる人。それでもぶつかるのは、彼だからではなく、茶椀(わん)の洗い方一つから台所仕事や洗濯、掃除まで、何をどこまでやるかは、人によって違うからなんですよね」 1年かけて、でこぼこしていたふたりの毎日が少しずつ平坦(へいたん)になっていく。 彼女はワインなら「ちゃんとしたグラスで飲みたい」タイプだが、彼が、結構な頻度で洗うときに割ってしまう。そのたび、「3千円もしたのに」と虚(むな)しくなる。しかし、癖もやり方も気質も違う大人2人なのだから、自分がいいグラスで飲むのをやめればいいと、次第に割り切れるようになってきた。 赤の他人の2人が一つ屋根で暮らし始めるとき、きっとだれにも起こりうる戸惑いと気づきだろう。 同棲2年を経て、彼女の東京転勤が決まった。彼も東京の会社に就職。 新しい住まいを2人で探し、「家事分担をせず、やれる人がやる」という暗黙のルールが定まっていくうちに、彼女は改めて気づいた。 「札幌の台所は、自分が暮らしていたところに彼が来たので、私がマイルールを押し付けていたんですね」