木材活用した新国立競技場デザイン 東京・多摩産材の使用は進むか
仕切り直しとなった新国立競技場の新しいデザインは、建築家・隈研吾氏の「A案」が採用されることになりました。「木と緑のスタジアム」がコンセプトとし、すり鉢状の3層構造で木材をふんだんに活用しているのが特徴です。 ただ巨大な建築物を木造で建設して耐震性や防火性は大丈夫なのだろうかと疑問を抱いた人もいるのではないでしょうか。近年、技術向上によって耐震性や防火性に優れた木造建築が可能になりました。そうした事情もあり、木造建築が見直されているのです。新国立競技場に木材がたくさん使われることになれば、長年定着してしまった木造のイメージは変わり、再び木材の利用が進むのではとの期待が高まっています。
技術革新と法制定で大型木造建築が可能に
2013(平成25)年、神奈川県横浜市に大型商業施設「サウスウッド」がオープンしました。「サウスウッド」の特徴は、大型ショッピングセンターにも関わらず木造で建設されていることです。 昭和初期に日本全国に建てられていた木造建築物は空襲で、ほとんどが燃えてしまいました。そうした教訓から、政府は1950(昭和25)年に建築基準法を改正。大型の木造建築を禁止しています。戦後、長らく日本国内では木造建築は耐火性や耐震性に劣るとされてきたのです。 ところが、最近は技術革新が進み、耐震性や耐火性に優れた木造を建設することが可能になったのです。調湿性や遮音性にも優れている木造建築は、住宅メーカーから注目されるようになりました。 大型の木造建築物を禁止していた建築基準法が、2000(平成12)年に再改正されて、大型の木造建築物が解禁されました。そうした“木造復権”の機運をさらに後押ししたのが、2010(平成22)年に菅直人内閣が制定した「公共建築物等木材利用促進法」です。同法によって、大型の木造建築が各地でつくられるようになったのです。
2007年から木材利用の促進進める東京都
東京都は石原慎太郎都知事(当時)が主導して2007(平成19)年に「緑の東京募金」を創設。政府の木材利用促進よりも早く、都内の緑化や林業の振興・木材利用に乗り出しています。 「東京都の多摩には、約5万3000ヘクタールにも及ぶ森林があります。これらは戦後復興期に植林されたものが大半です。これらは50年生となり、木材として利用可能になっています。ところが高度経済成長期からバブル期に欠けて林業は衰退してしまいました。その間、林業従事者も減ってしまい、多摩の山林は放置されたままで伐採が進んでいないのです」(東京都産業労働局森林課) 林業が衰退してしまった主な理由の一つに、安い外国産木材が大量に輸入されるようになったことがあります。輸入木材によって、割高な木材は売れなくなりました。木材が売れないから、就業人口が減少する。就業人口が減少するから、伐採が進まない。日本の林業は悪循環に陥り、昭和30年代頃から約50年間の空白期間を生みました。 森林が伐採されずに放置されると、新しい木が植えられなくなります。森林が更新されなくなるのです。きちんと森林が管理されないと、土砂災害の要因にもなります。