「ラジオの力、信じている」 来年で放送100年、ノイズの郷愁も迫られるFMへの転換 AMノスタルジー①「世紀」
AM放送を行う民間事業者全47社で作る連絡会は、令和3年6月、北海道と秋田を除く全国44のAMラジオ局が10年秋までに、FM局への転換を目指す方針を発表した。
その主な理由は維持費だ。先ほどの「見上げるアンテナ」は、AMを維持する困難さも象徴している。
AMの送信設備は広い敷地が必要で、電気代だけでFMより10倍以上かかり、老朽化が進む中で設備更新には数十億円かかると見込まれる。広告費の減少に悩むラジオ局にとって、FM転換は「決して避けられない道」(関係者)という。
■柔らかい音を愛され
AMと同内容の「ワイドFM」は、全てのAM事業者が既に放送している。文化放送やニッポン放送のFMは東京都墨田区の東京スカイツリーから発信され、アンテナは小型で他局と共同のため、コストは安い。
だが、「柔らかいAMの音こそラジオだと聞き続けているリスナーも多くいらっしゃる」と中村さん。文化放送はリサーチ会社に依頼して、AMとFMそれぞれのリスナー数を調査した。奥沢賢一取締役は「AMを聞いている人が相当数いることが分かった。この状況で予定通りのFM転換は、厳しいと言わざるを得ない」と明かす。
それでも、中村さんは「次の100年を迎えるために、私たちの世代でできることを一歩ずつ進めなければ」と力を込める。
「届ける手段が変わっても、ラジオの社会的な使命はいささかも変わらない。ラジオの力を信じている」
ノスタルジーを超えた次の「世紀」をのぞく前に、この連載は次回、ラジオの「産声」へとさかのぼる。(大森貴弘)
■AMとFM、何が違う?
ラジオ放送の当初から使われているAMは、音声信号を電波の強弱によって伝えている(振幅変調)。一般には526・5~1606・5キロヘルツの中波放送を指し、海外を含む広範囲に届くメリットがあるが、必要な設備が敷地・アンテナとも大きく、雑音が多いなどのデメリットもある。受信に必要な回路はシンプルで、電池を使わない鉱石ラジオもある。
一方、FMは音声信号を周波数の変化によって伝えている(周波数変調)。周波数は76・1~94・9メガヘルツの超短波。送信アンテナは小型で鉄塔に設置でき、雑音が少ないため音楽鑑賞にも向いている。ただ、届く範囲が最大100キロ程度と限られ、山陰で聞こえないといったデメリットがある。