イノベーションとはゼロからイチを生むことではない…年末年始に読みたい「シュンペーター入門」
■「静態的」な経済で貨幣は交換の手段に過ぎない この「静態的」な経済においては、貨幣は交換の手段に過ぎず、それ以上の役割を果たしません。 例えば、貨幣は、貯蓄の手段になり得るはずです。しかし、「静態的」な経済では、貨幣を貯蓄する意味はありません。というのも、「静態的」な経済では、需要と供給が均衡しているので、消費のために使う量以上に貨幣を保有しておく必要がないからです。 以上が、シュンペーターの言う「静態的」な経済、つまり発展しない経済です。 実際にシュンペーターが『経済発展の理論』(初版)で展開した議論は、これよりはるかに複雑で難解です。しかし、簡単に言えば、おおむね、このような理解でよいと思われます。 ■「動態的」な経済ではイノベーションが起きる それでは、「動態的」な経済(発展する経済)とは、どのような経済なのでしょうか。それは、「静態的」な経済(発展しない経済)とは、何がどう違うのでしょうか。 言うまでもなく、経済発展の原動力は、まったく新しい価値を生み出す活動、いわゆる「イノベーション」です。「動態的」な経済では、イノベーションが起きますが、「静態的」な経済ではイノベーションはあり得ません。 シュンペーターは、イノベーションという活動の本質は、「新結合」であると述べました。先ほど見たように、生産とは、既存の物や力の「結合」です。 この物や力の「結合」のパターンを変革して、まったく新しい組み合わせの「結合」を行なうことが「新結合」、すなわちイノベーションだということになります。
■イノベーションの5つの分類 シュンペーターは『経済発展の理論』(第二版)の中で、「新結合」を次の5つに分類しました。 ---------- (1)新しい財貨、すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産 (2)新しい生産方法、すなわち当該産業部門において実際上未知な生産方法の導入。商品の商業的取扱いの新方法も含む (3)新しい販路の開拓、当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓 (4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得 (5)新しい組織の実現、独占的地位の形成あるいは独占の打破(*4) ---------- このように、シュンペーターにとっての「新結合」とは、新製品のみならず、生産プロセスの革新、新市場の開拓、原材料の新しい供給源の開拓、そして組織の革新までも含む広い概念でした。 ■「新結合」が純利潤を生みだす 先ほど述べたように、「静態的」な経済では、純利潤というものは存在しません。しかし、新結合が行なわれる「動態的」な経済では、純利潤は存在し得るとシュンペーターは考えました。 例えば、手織機による労働だけで繊維製品の生産が行なわれていた「静態的」な経済において、力織機による生産という新結合を実現した企業者がいたとします。 そして、その力織機によって、一人の労働者がこれまでの6倍の製品を製造できるようになったとします。すると、その企業者は、手織機から力織機に乗り換えたことによる劇的なコスト減効果によって、「純利潤」を手に入れることができます。 この場合の「純利潤」とは、力織機で生産した場合に得られる利益と、手織機で生産した場合に得られる利益の差額のことです。こうして、新結合は、企業の純利潤の源泉になるのです。