商業捕鯨再開から5年、クジラを巡る新たな動き 73年ぶりの新捕鯨母船も
食卓でのなじみが薄れつつあるクジラ。日本は2019年に商業捕鯨を再開し、ここへきてクジラを巡る新たな動きが出てきた。水産庁が捕獲枠を新設する方針を示し、大幅に増産の見通しとなったほか、73年ぶりに建造された国産の新たな大型捕鯨母船が操業した。(時事通信水産部長 川本大吾) 【写真】新たな国産の捕鯨母船「関鯨丸」 ◆ナガスクジラの捕獲枠を新設 日本は縄文時代からクジラを利用してきたとされる。しかし、世界的な資源保護の流れや反捕鯨論の高まりにより、1982年に国際捕鯨委員会(IWC)は商業捕鯨の一時停止を採択した。日本も商業捕鯨を中断し、87年からは調査捕鯨を継続してきた。商業捕鯨の再開を求め、日本はIWCで粘り強く議論を続けたが、反捕鯨国との溝が埋まらず、2019年にIWCを脱退。同年7月から商業捕鯨を再開した。自国の領海と排他的経済水域(EEZ)内で、資源管理に基づいて捕獲可能量を決め、ミンククジラなど3種を捕獲してきた。 水産庁は今年6月、3種に加えて大型のナガスクジラの捕獲枠を新設し、59頭の捕獲を認める方針を示した。体長およそ20メートル、最大で80トンの重量を誇るナガスクジラからは、1頭当たり20トン以上の鯨肉が取れるため、合計1200~1300トンの増産が可能となる。ただ、正式決定後に捕獲が開始されるのが7月以降となるため、半分程度の捕獲にとどまりそうだ。 ◆商業捕鯨の捕獲枠にIWCの管理方式 日本はIWCを脱退したものの、現在行っている商業捕鯨はIWCで採択された改定管理方式(RМP)を採用している。水産庁は捕獲枠について、「100年間、毎年その頭数を捕っても資源は減らないという管理方式」と説明する。 一方、クジラはかねてから大食漢であることが知られ、調査捕鯨を行ってきた日本鯨類研究所(東京)によると、世界の年間漁獲量(養殖を除く)の3~5倍という大量の魚を食べていると試算されている。 中には大不漁に見舞われているサンマやスルメイカ、サケといった魚種もたくさん含まれており、クジラが不漁に拍車をかけているのではないかと指摘する向きもある。海の生態系の最上位にいるクジラだけに、資源保護策を講じながら一定量捕獲することは、バランスを保つ上でむしろ必要なことかもしれない。 ◆国内消費量はピーク時の1%以下 クジラの国内消費量は現在、年間約2000トン。1960年代の前半には20万トン以上を消費していため、ピーク時の1%以下となっている。竜田揚げやベーコンなど、かつて庶民の味だったクジラ料理を懐かしむ声さえ少なくなりつつある。 国内最大の鯨類生産を担う捕鯨会社、共同船舶(東京)は、捕鯨船が捕獲したクジラを引き揚げて解体し、加工処理などが可能な捕鯨母船「関鯨丸」(総トン数、9299トン)をおよそ75億円かけて建造し、今年3月に竣工式が行われた。国産の建造は実に73年ぶり。5月に千葉県銚子市沖で、関鯨丸船団がニタリクジラを初捕獲した。今後はナガスクジラの捕獲も予定しており、鯨肉需要の掘り起こしにも意欲を見せる。 共同船舶の所英樹社長は「若者からは、クジラは捕ってもいいの? 食べていいの? どこで買えるの? という疑問の声が多いほか、鯨肉は硬い、臭い、ドリップが出るといったイメージを持つ人が少なくない。それなのに、なぜ、クジラを食べる必要があるのかといった否定的な見方もある」と嘆く。その上で、同社長は「ネガティブな声に対し(捕鯨会社として)、クジラ利用の意義を説明していく必要がある」と、増産と消費の拡大に向けて意気込む。 ◆東京のクジラ料理店で消費喚起 鯨肉需要を喚起しようと、共同船舶は東京都内を中心に24時間の無人販売店「くじらストア」を設置しているほか、今年5月上旬には千代田区に直営レストラン「ラ・バレーナ・ネル・パルコ」をオープン。おしゃれな雰囲気の店内で、さまざまなクジラ料理を楽しむことができる。 このほか、都内でクジラ料理専門店などを経営する「ひとうみ」の大越勇輝社長は、手軽にクジラ料理を味わってもらおうと多くのメニューを用意している。週末には、クラジのステーキやにぎりずし、煮込み、竜田揚げなど、税込み3900円で食べ放題のメニューを設定し、「若者も含めて多くの人にクジラの魅力を味わってもらいたい」(大越社長)とPRしている。