「閉鎖的なフランス映画界の体制をぶち壊したかった」 気鋭の監督ラジ・リ、最新作『バティモン5 望まれざる者』インタビュー
政治に参加するアビーと、政治を諦めてしまったブラズ。作品で描かれた若者の姿
―地域団体の活動家であるアビーはストリートの人々も味方につけ、グラフィティアートで投票を呼びかけていましたね。ラジ・リ監督はアーティストとして、アートが持つ力をどのように捉えていますか? リ:もちろんアートには大きな力があると思っています。『レ・ミゼラブル』がヒットしたことで変化したこともいろいろありました。約束は破りましたがマクロン大統領が言及したことや、人々があの作品を観てパリ郊外の現実にショックを受けたというのも大きな変化だと思います。 また『レ・ミゼラブル』以降、パリ郊外や多様性を描く映画も増えましたし、CNC(フランス国立映画映像センター)では多様性に関する取り組みが増えるという変化もありました。それもアートの力ですよね。 ―アビーをはじめ積極的に主張をする女性が多く登場するのは『レ・ミゼラブル』との大きな違いですが、そこに込めた意図はあるのでしょうか? リ:実際郊外に暮らす女性たちはアビーのように力強く、自主的に政治や市民活動にも参加している人がたくさんいます。ただ残念なことにそういった女性たちにフォーカスが当たることは少なく、見過ごされてきた現状がありました。なので私は『バティモン5 望まれざる者』で、そんな女性たちに敬意を払うとともに、その存在を可視化したいと考えたんです。 ―積極的に政治参加するアビーと、境遇も関係していますが、デモや政治活動を冷笑するブラズの姿が印象に残りました。日本でも現状に不満を持ちながら政治に無関心であったり、政治的アクションを起こす人に対し冷笑的な態度を取る人が大勢います。 リ:ブラズのようにあきらめてしまった人はもう政治を信じることができず、残された解決方法は暴力しかないと考えています。いろんなものを燃やしたり、暴れたりすることで怒りを表現するというのは、2005年や2008年、そして2018年に起きたフランスの暴動で多くの若者が示した態度と同じですね。 結局それでは何も変えることができなかったどころか、事態を悪化させてしまいました。そのような過去を踏まえても、暴力は解決策にはならないのです。とはいえ、ブラズがその考えに至った理由も理解はできますよね。 郊外の劣悪な環境で生まれ育ち、貧困のなかでつねに社会から疎外され続ければ、誰だってああいった行動に走ってしまう可能性はあります。