老舗企業の経営者が感じた、普段の職場環境を離れ、新しい仕事を体験することで得られた効果
■ 承認欲求や所属感を満たされる社員 まず心理面ですが、普段の職場環境を離れることでリフレッシュできると考えられています。毎日の業務に追われる毎日から解放され、発想を切り替えたりリセットしたりする機会が生まれるからです。 また、新しいことにチャレンジすることで、自分の新たな可能性に気づく機会があります。その発見が仕事への新たなモチベーションとなり、前向きな姿勢になれることも少なくありません。 加えて、環境が全く異なる中で、日頃の自分を客観視できれば、現在の仕事へのスタンスを見直し、納得感を改善することができます。つまり、単なる息抜きだけでなく、モチベーション向上や仕事を俯瞰する機会をもたらすことが期待できるわけです。 一方の社会生活面では、普段の職場とはガラリと異なる価値観や文化に触れられます。社外に出るだけで、多様性を実感でき、新しい人間関係も構築できるでしょう。 社内で評価の振るわない社員が体験先で認められ、受け入れられれば、その社員は承認欲求や所属感で満たされ、社会的なウェルビーイングを高めることにつながります。 つまり、大人の職業体験は、心の健康と社会生活の両面で、従業員一人ひとりのウェルビーイングを支えてくれると期待されているのです。 具体例を挙げれば理解が深まると思います。神奈川県の老舗の道路工事会社、Y社の社長が実際に大人の職業体験を体験されました。
■ 職業体験に参加した経営者が得たもの 先代が立ち上げた事業を継承してきましたが、変化の大きなこの時代の中で、将来への不安や新規事業立ち上げへの強迫観念があったそうです。誰かに相談したくても、周りには自分と似たような悩みを抱える社長仲間と社員しかいない。一人悶々としていました。 そこで複数の異業種の仕事を体験して、新たな気づきを得ようと考えた社長は、伝統工芸の職人や街づくり企業、町工場など、複数の職種を期間限定で体験されました。 すると、本来のご自身のあり方が見えてきたそうです。普段とはかけ離れた環境に身を置き、複数の経営スタイルに触れることで、これからY社がどの道を進むべきかの方向性が明確になったのです。 社外に出たことで、固定観念からも解放され、良い意味で足元を見直すことができました。日常から離れた職場は、ストレス発散の場にもなったのでしょう。 社長は「思い込みから解放された」「想いを共にする仲間に会えた」と振り返っています。現在では社員に対して職業体験を積極的に推奨しています。まさにウェルビーイングの向上につながった事例でした。