中村敬斗と三笘薫の突破に見る、サッカーにおける「ブロックプレー」の有用性
セットプレーで多用されるブロックプレー
三笘が行ったのは「ブロックプレー」と呼ばれるプレーだ。文字どおり、相手の進行をブロックすることで味方を援助する。バスケットボールなどの経験がある人なら、「スクリーン」という呼称のほうが馴染み深いかもしれない。あらゆる球技でよく使われる、定番の連係プレーの1つだ。 このブロックプレー。従来サッカーで使われることはあまり多くなかったが、近年トップレベルの試合で目にする機会が増えてきている。特によく使われるのが、セットプレーの局面だ。 日本代表も、このオーストラリア戦のセットプレーでブロックを使用していた。前半14分の右CKの場面。ゴール近くに5人の選手が密集することでオーストラリアのDFたちをゴールエリア内に集め、キッカーの久保建英はファーサイドの少し離れた位置で待っていた堂安律へ。堂安に寄せるため前に出ようとするオーストラリアのDFを、ゴール前に入っていた谷口彰悟、上田綺世、町田浩樹らがブロック。相手DFの動きを止めることで、堂安はフリーでボレーシュートを打つことができた。 セットプレーは、デザインした戦術を最も発動しやすい場面だ。代表レベルの試合のみならず、今ではJリーグの試合でも盛んに行われており、今後もブロックプレーを組み込んだ崩しはさらに増えていくことだろう。
サッカーにおけるブロックプレーの可能性
バスケットボールやハンドボールといった手でボールを扱うゴール型の球技では、流れの中でもブロックプレーがよく使われる。 例えば、ハンドボールのゴール前のスペースの狭さはサッカーの比ではない。手でボールを扱う分、足でボールを扱うサッカーと比べて攻撃側がより主導権を握ることができるため、ボール非保持側のコートプレイヤーは、6人全員が予め自陣ペナルティエリア付近まで引いて守備を行うことが多い。横幅20mのハンドボールコートで、これだけゴール前に人を集めて守られるのだから、それを崩すにはより緻密な戦術が必要となる。攻撃側の選手同士がクロスするように入れ替わる瞬間、マンツーマンで着いていこうとする相手DFをブロックすることで、味方がシュートを打つための僅かなスペースを創出する。ブロックプレーは、狭いスペースを切り崩すための有効な手段の1つなのだ。 では、一方でサッカーのゴール前の攻防はどうだろうか。現代サッカーにおいて、ゴール前の密集地帯は、上記したハンドボール等に近い状況になることも珍しくない。特に力量差のあるチーム同士の試合では顕著だ。 例えば、現在日本代表が戦っているアジア最終予選などは良い例だ。今や日本はアジアトップレベルの戦力を有する国の1つとなった。代表選手のほとんどが海外組。イングランドやスペイン、ドイツ、イタリアといった列強国の1部リーグで主力を張る選手たちで構成されるチームの実力は、アジアレベルのそれではない。従って、圧倒的にボールを保持して相手陣内深くに押し込む時間が長くなる。守る相手国側は意図している・いないに関わらず、自陣に引いて守ることになるので、ゴール前のスペースは極めて狭くなる。 こうした状況を切り崩すのに有効な攻撃法の1つが、サイドからのクロスボールだ。比較的スペースができやすいサイドからゴール前にボールを送り込み、前線の選手が頭で合わせるか、またはその競り合いのこぼれ球を狙う。相手よりもサイズやフィジカルで上回れていれば、この攻撃を繰り返すことで得点を奪える可能性が高い。 しかし、先月対戦したオーストラリア代表のように、高さのある相手にはそうもいかない。現に日本も、ゴール前へのクロスボールを幾度となく跳ね返された。 そうなると鍵となるのが、相手陣内深い位置でのコンビネーションだ。複数の選手が連動して相手を動かす、あるいは相手の動きを制限することで突破口を切り拓く。中村と三笘が見せた崩しは即興的なアイディアによるものだったが、連動して局面を打開した典型的な例だ。ブロックプレーをきっかけにサイドを抉(えぐ)ってゴール近くまでボールを運べたことで、大外から放り込むクロスに比べて遥かに確度の高いチャンスを作ることに成功した。中村や三笘といった選手たちのドリブル突破は、もちろんそれ単体でも局面を打開できてしまうほどの素晴らしい武器だが、味方と連動することでその破壊力はさらに倍々に増す。中盤からゴール前にかけてのスペースがどんどん少なくなってきている現代サッカーにおいて、ブロックプレーも有効な局面打開の手段となり得るはずだ。