なぜ村井チェアマンはJクラブハウスの新型コロナPCR検査場使用を菅官房長官に提案したのか?
現時点でJ1は全18クラブが活動を休止し、スタッフもほとんどが在宅勤務となっている。J2も21クラブが同様の状況で、唯一練習を継続しているジュビロ磐田も25日から休止に入る。J3は21日の時点でヴァンラーレ八戸、いわてグルージャ盛岡以外の14チームが休止に入った。 ほとんどのクラブで村井チェアマンが描いた青写真を具現化できる状況にはある。しかし、実際にPCR検査の会場となれば、選手たちやコーチングスタッフ、職員らへの2次感染を防ぐ意味で、サッカーチームのクラブハウスとしては当面使用できない状態となるだろう。 プロ野球をはじめとする他のプロスポーツに先んじる形で、Jリーグは2月下旬からリーグ戦およびカップ戦をすべて中断および延期している。3度、設けられてきた再開目標は感染拡大の一途をたどる新型コロナウイルス禍のもとですべて流れ、いま現在は白紙状態に戻されている。 「5月の連休明けから1カ月ぐらいの時間をかけて、要は6月に再開が可能なのか、7月になるのか、8月になるのか、あるいはもっと深いところになるのか。今日の段階で申し上げることができません」 15日の臨時理事会後のメディアブリーフィングで、今後に関してあらためて白紙を強調していた村井チェアマンは、この日の月例理事会後も具体的な言及を避けている。 「無観客試合は最後の最後まで(行わない)という考え方は変わりませんが、場合によっては無観客試合でもダメかもしれないし、逆を言えば無観客試合の方が望ましい時期やエリアもあるかもしれません。さまざまな複合的な考え方のなかで、再開方式を検討していかなければいけない。その意味では無観客試合も選択肢のなかにそろそろ入ってくる可能性もありますし、何よりも再開方式は我々だけでは決められないという前提に立って、さまざまなオプションを検討している状況です」
今後は日本野球機構(NPB)と共同で設立した、新型コロナウイルス対策連絡会議の第6回会議を23日にウェブ会議方式で開催。東北医科薬科大学の賀来満夫特任教授(感染制御学)を座長とする、3人の専門家チームによる提言をJリーグへ持ち帰った上で、自身のもとで発足させている4つのプロジェクトのなかで、試合日程や観戦環境対策を協議するチームで今後へ向けた検討を重ねていく。 しかし、新型コロナウイルスを取り巻く日本の現状を見れば、東京や大阪など大都市圏の7都府県で緊急事態宣言が発令されてから2週間がたった21日でも、新たな感染者が増えるペースは減少に転じていない。医療崩壊につながりかねない、院内感染の報告も全国規模で増えている。 活動休止中のJクラブの多くは、その期限を5月6日までとしている。緊急事態宣言の期限に合わせたものだが、予定通り解除される可能性は低いと言わざるをえない。そうした状況下で、各クラブのクラブハウスをPCR検査会場として提供できる用意があることが提案された背景には、新型コロナウイルスとの戦いがさらなる長期戦を強いられると、村井チェアマン自身が覚悟したからではないだろうか。 現状で最短と見られる6月上旬に再開させるには、身体を再び作り直すことを含めた準備期間を考えた場合、ゴールデンウィーク明けにはクラブの活動を再開させる必要がある。しかし、予断を許さない状況がこれからも続くことが必至となったいま、目に見えない敵との戦いを乗り越えるために、地域を担う一員として各クラブが協力しなければならない段階になったのではないだろうか。 村井チェアマンによれば、会談のなかで菅官房長官からは「全国でいっせいにというわけではないが、ひとつでもふたつでもそういうケースができれば大変ありがたい、というお話をいただいた」という。政府への提案は月例理事会でも報告され、協力が可能という考え方が共有された。 「もし国や行政からそういった要請がある場合に、各論で個別のクラブと話をしていく可能性があるということです。地域によって医療のニーズも違ってくるでしょうし、行政が管理しているクラブハウス施設や、クラブハウスの構造の問題などもあるなかで、個々の調整も必要になるので」 今後の展開に関して、村井チェアマンはリーグが主導する形ではないと強調した。韓国やフランスなど、リーグ戦の再開へ向けた具体的な日程や動きが出てきた国もあるなかで、長期戦の様相が色濃くなっていく日本で、サッカー界が果たす役割も大きく変わってきそうだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)