火野正平と楽しんだ思い出の一杯… 松尾諭も痺れた「ジョニ黒」回など、名優が集まるドラマ「BARレモン・ハート」の魅力
BSフジ開局15周年記念番組として、2015年にスタートしたドラマ「BARレモン・ハート」。2024年も、12月27日(金)夜9時から新作回が放送されることが発表されている。30年以上連載された原作漫画から、選りすぐりのエピソードを映像化する同ドラマ。毎回心温まるストーリーを見事に表現するのは中村梅雀、川原和久、松尾諭の3人だ。2024年を締めくくる“いつもの”ドラマを前にして、3人に長い付き合いになる同作の魅力を改めて振り返ってもらった。 【写真】故・火野正平が出演した回「グッバイ ジョニー」 ■あっという間にやってきた年末恒例ドラマ ――1年振りとなる「BAR レモン・ハート」収録を終えてみて、去年と比べての感想などを教えていただけますか? 中村梅雀(以下、中村):毎年毎年違うのです、いま一番思うのは2015年にBSフジの15周年記念で始まって、その年を1年目とすると…ちょうど10年目になるということです。なんか、感慨深いなぁと。これで57本になるのかな? ――すごい。 松尾諭(以下、松尾):「渡る世間は」に、もう、ねえ。 一同:(笑) 中村:始めたころ、原作を描いていらっしゃる古谷三敏先生に「僕はコミックのマスターと顔も雰囲気も全然違いますし、本当によろしいんですか?」と言ったことがあったんです。そうしたら先生が、「いえ、マスターはあなたに宿ってきますから、大丈夫です」と。それでやっと「あ、やろう」と思ったんですよ。お話をいただいたときはもう全然、自信がなかったので…。 ただまあ、本当に苦労が多くて(笑)。セリフも説明セリフが大変でした。カクテルを作るシェイカーとか、ステアとかの所作を覚えるのが難しかった。お高いシャンパンを開けてサーブするシーンはすごいプレッシャーだったんですが、何とか切り抜けてきました(笑)。 ステアというのはバースプーンでカクテルをかき混ぜる技術なんですが、すごいそれにこだわる回がありました。そのときに少し「上達したな」と思えるような感覚があったのを覚えています。ただ今回は”技”を魅せるよりも、注いでサーブするだけなんで(笑)。すごく今回は楽ですね。 中村:説明セリフも多いですから、大変ですよね。でもやっぱり原作のお話が500本近くあるわけですから、これからもっともっと続けて…。本当に僕としてはライフワークになるんだろうなと、ずっと思っています。 ――ありがとうございます。では続いて松尾さん、いかがでしょうか。 松尾:もう僕は常に初心でやってますんで、去年のことは全く覚えていない。 ――(笑) 松尾:フレッシュな気持ちで、ゲストの方と同じように緊張感をもって、「どうやって撮るのかな?」「お酒は本物を飲むのかな?」と、ドキドキわくわくしながらやってます。 ――迎えるというよりは、一緒に楽しむという気持ちで? 松尾:はい、そうです(笑)。それくらいの気持ちで…やっぱり長く続いている作品ですからね。「なじみの店に帰ってきたな」という感じですね。 ――川原さんも伺ってよろしいですか? 川原和久(以下、川原):僕も、今日偶然なんですけど「この“BARレモン・ハート”って何年やっているのかな」と梅雀さんにお尋ねしたんですよ。すると「調べたら9年か10年なんです」と聞いて驚いたものです。でも年に一回とはいっても、“ついこの間”みたいな感じなんですよね。ついこの間、帰りに飲んで…。 中村:もう一年経っちゃったかという感じ。 松尾:撮影終わりの記憶は、あとの打ち上げでなくなってしまうんですよね。名残がないまま終わっていきますから、毎回。 川原:それで全部更新されちゃっているのかも。 ――忘年会は毎回やられていたんですか? 松尾:忘年会ではないです!打ち上げ。いや、テイスティングです。 中村:打ち上げ。 川原:勉強会です。 松尾:一番体力を使いますからね。 川原:あー、こういう味なんだ、と。それを来年に生かすために。 松尾:覚えてないんですけどね(笑)。 ■マスターのモデルは「嬉々として説明してくれる人」 ――劇中に飲んでいるのはお酒ではないと伺いました。 松尾:僕は今日、一杯だけ飲みました。 ――そういうこともあるんですね。 中村:たまに、誤魔化しのきかないものは、ちょっとテイスティングします。いまはわざと切ったりしていますが、カットがつながっている場合は飲まないとダメですね。あらかじめ「これは飲んでも大丈夫ですよね」という、スタッフさんとの了解を交わします。ただやっぱり、飲んだときは顔が違いますね。 川原:そうなんですよ。確かに。 中村:そこは全然違いますよね。 松尾:そこはちょっとまだ、芝居で上手くできない。 中村:ハハハ。 ――それぞれのキャラクターが愛すべきキャラクターだなと思いながら拝見しているのですが、改めてご自身のキャラクターの魅力がどんなところだと感じていますか?また、演じる際に意識されているところがあれば教えていただけますでしょうか。 中村:マスターはとにかく、「この店に行きたい、ここに行きたい」と思ってもらえるような人物をイメージしています。実は私が演じる“マスター”には、2人のモデルがいるんですよ。僕が知っているバーのマスターなのですが、共通しているのが「お酒の説明をする時に、嬉々として、本当にそこに行って作っているところを見てきたように」説明してくれるんですね。実際に見てきているマスターもいるのですが、その状況が目に見えるような説明を、嬉しそうにしてくれる。これがずっと聞いていられるんですよ。 マスターの説明を聞きながら飲むのが美味しいという、そういうマスターだと良いんだろうなと思ったんです。そこはそのお2人の雰囲気をすごく意識しています。 そうした意識で演じていると、全国のバーに行って「あ、マスターですね」と言われる瞬間をすごく誇りに思うんです。そういうときに出会ったマスターの良いところを、少しずつとりいれようかなと考えています。たたずまいや、逆に「決してあんな風にはしない」とか、「こういう風にしたらいいなあ」とか…。お客さんはこういう風にしたら落ち着くなとか、いろいろなバーテンダー、マスターをすごく観察するようになりました。 松尾:僕はこういう、オーセンティックなバーにはあんまりそぐわない感じのキャラクターだと思っているんです。でもそれは“BARレモン・ハートに”おける適度な違和感であり、アクセントみたいな感じになっていればいいなあと思っていますね。 川原:僕は台本をいただいてから読んで世界観を作っていて、自由にやらせてもらっています。 中村:お2人ともそのまま、雰囲気がちょうど生きるようになっている。 松尾:それはマスターが良いからですよ。 中村:何をおっしゃいますか(笑) 川原:そういうことです。どれだけ楽をさせてもらっているか。 松尾:良い店なんですよ。酒は人で飲むからね、やっぱり。こういうマスターだから、僕らも美味しく芝居ができると。…いい感じのこと言えたんじゃないですか? 中村:いい感じ(笑) ■火野正平、里見浩太朗…名優が魅せた神回 ――これまでの放送で、印象的だったお酒や放送回があれば教えていただけますか? 松尾:僕が回として印象に残っているのは、火野正平さんが出演された時です。お酒は、“ジョニ黒”だったかな。火野正平さんがゲストだった回はすごく火野さんにシビれた記憶が残っていて、好きなエピソードですね。今年(2024年)、お亡くなりになったので余計に印象深いです。 中村:僕は里見浩太朗さんがいらっしゃった回です。サロンというお高いシャンパンを開けてサーブするのですが、全部つながったワンカット。「これは幾らだ」と震える世界なので、本当にあれは緊張を通り越してものすごい集中力で演じたなと…。すごくうまくいったのもあって、印象深いですよ。 松尾:里見さんのようなベテランの人にも長台詞を割らずにワンカットでやってもらっていて、それもすごいなと思って。あまり現代劇の印象がなかったのですが、バシッと決めている里見さんの姿にはみんなシビれましたね。 中村:素晴らしかった。あんなに自然体で、しかもすごい深い内容を演じられて「さすがだなあ」と。 松尾:そのあとに梅雀さんがしゃべるとき、「(失敗できないと思って)すごい緊張するやろな」と思って見ていました(笑)。「俺なら絶対に嫌」と思って。 中村:里見さんと僕はずいぶん共演しているので、妙な緊張はなかったですよ。やっぱりサロンを注ぐときが一番緊張しました。あのとき、現場には2本しかなかったのかな?なにしろ1本何十万ですよ。だから、本当に緊張しました。 松尾:ありましたね、サロン…。泡が出るから注ぐのが難しいんですよね。一番高いくらいですかね、いままで扱ったお酒のなかで。 中村:いままでで一番高い。 ――川原さんといえば、お酒好きとうかがっています。サロンのようなお酒も嗜まれますか? 川原:僕はお二方と比べて、それほどでも…。お酒を飲むのは好きなのですが、そんなに高価なものはいただきません。量を飲みますんで、高いのばかりは飲めない。 ■「おばんでやす」で通じるバーの世界 ――2015年から現在まで番組が続いていることに関してはどう感じていますか? 中村:原作は膨大な量があるし、日本中のバーテンダーのバイブルと言われている作品です。お話をいただいたときに「すごいぞ」と思ったので、「絶対に続けなきゃ」と思っていました。最初のうちは大苦戦したのですが、そういう回でも意外とファンの方にも受け入れていただけて…。「あの回は印象的でした」と、いろいろなバーテンダーの方から言われたことが嬉しかったです。 皆さん、すり減るほど原作漫画を読んでいるわけじゃないですか。そのなかで僕が登場したら「雰囲気が違うだろ」と感じられるかと思っていたので、そうではなかったのが余計に嬉しかったですね。 ――お酒の作り方や動作なども上達している感じはありますか? 中村:撮影が1年ずつ空くので、上達したつもりでも「久しぶりだ、うまくいかないな」というときはありますね。 ――撮影の度に練習し、思い出しながらという感じでしょうか? 中村:そうです。2015年のスタート時、バーテンダーセットをいただいて練習をしていたんですよ。 松尾:僕はこの作品で色んなお酒を飲むことができ、洋酒をしっかりと知ることができました。お客さんとしてバーに行くと注文するときも緊張してしまうのですが、お店の人から「ウーロン茶割ですか?」と聞かれるようになりました。そういうやり取りがあると、緊張もほぐれますね。 お店に電話で予約するときに名前を言わなくても、僕が演じる「松っちゃん」のあいさつ「おばんでやす」と言うだけで「松尾からだな」と通じるお店も増えてきました。こういうことがあるから、もっと全国のバーマンに観てもらいたいですね。 中村:作中で松ちゃん(松尾が演じているキャラクター)が飲むウイスキーのウーロン茶割って、意外に美味しいんですよね。 松尾:あれは黒ウーロン茶なんですよ。僕も自分で作ってみたんですが、やっぱりプロが作るものは違いますね。 中村:「グレンリベット」の水割りを扱う回があったのですが、家で作って「本当に難しい」という気持ちを味わいました。ラストに「追いウイスキー」をやって師匠に褒められる…というストーリーなので、それを真似たら途端に形になって。それ以来、グレンリベットの水割りは得意になったし、ソーダ割はウチの娘が作って母親に飲ませています。 川原:僕はあんまり思い出せないです(笑)。2人は熱量がすごいなと思って聞いていました。 でも、お酒の飲む種類などは変わりましたね。若いときは焼酎を色んなもので割って飲むことが多かったのですが、大人になってからはワインも飲むようになりました。そしてこの番組に出ることになってからは、スコッチなんかも買って飲むようになりましたよ。グレンモーレンジとか。作品を通して、お酒の裾野が広がりましたね。 ----------------------------------------------------------------- 12月27日(金)に放送される「BARレモン・ハート年末スペシャル2024」では、新作「私のスピリッツ」「お土産を手に」のほかに旧作2本を公開。田山涼成・平山あやが出演する「老猫の仕事」と、2024年11月に世を去った俳優・火野正平をしのび、松尾も印象深いと挙げていた「グッバイ ジョニー」をアンコール放送する。