『虎に翼』脚本家・吉田恵里香さん(36)「朝ドラを書くのは長年の夢でした」|VERY
──作品中、ある登場人物が“家族とは帰る場所があるということだ”、という考えに辿り着きました。吉田さんはどのような意図でこの言葉を描いたのでしょうか。 「アロマンティック・アセクシュアル」を書くとともに、「恋愛感情がなくても家族になることはできるか」を書くことも作品のテーマの一つでした。私は「家族」という言葉がもともとあまり好きではありません。血縁や恋愛感情で結ばれた関係は「良きもの」だとそのまま書くのはしんどいと思っていたんです。家族だからといってどんなことがあってもつないだ手を離してはダメだとは言い切れない。今回は「家族」を絆で結ばれたゆるぎないものではなく、もっと軽やかに書きたいと思っていました。 気をつけたのは、“どんな関係にも縛られなくていい”ということです。血縁の有無や、元々恋人であったかどうかにかかわらずその人の「帰る場所」でありさえすればそれは家族といっていいのではないかと思うのです。「家族」はこうあるべきという窮屈な縛りから離れて、「家族」がもっと幅広い関係性を示す言葉になればいいという思いを込めました。
視聴者の反応まで背負う覚悟で
── 2024年度前期の連続テレビ小説『虎に翼』の脚本を担当されます。話を聞いたときのお気持ちはいかがでしたか? すごくうれしかったです。毎年、手帳に40個くらい「これから叶えたい夢」を書くのですが、“朝ドラの脚本を書く”ことはもう何年も書き続けていたことでしたから。それこそ『恋せぬふたり』の打ち合わせが始まった時からプロデューサーさんにずっとその思いは伝えていました。先日、俳優さんたちとの顔合わせに参加したのですが、普段から大ファンの俳優さんが多数出演しているのでミーハー心が騒ぎました (笑)。 ── 物語は、日本ではじめて弁護士資格を取得した女性をモデルとした主人公・猪爪寅子(いのつめ・ともこ)の人生を描くリーガルエンターテインメントです。今回主役を演じる伊藤沙莉さんには、寅子のどんな姿を重ねましたか? 女性が今以上に生きづらかった時代背景があるとはいえ、主人公の生い立ちから、当時としては恵まれた環境にいるからうまくいっただけと思われる可能性もあると思ったんです。でも伊藤さんが演じてくださるなら、きっと内面まで愛してもらえる人物になるのではないかと。誤解が生まれてしまうかもしれないから書くのをやめようかと考えてしまうエピソードも、よし、書いちゃえ!と覚悟が決まりました。主人公の寅子は一歩引いて誰かを支えたり、何も言わずに状況を察してくれという受け身の人間ではありません。むしろすごくよくしゃべるし不満や疑問を感じれば口ごたえすることもあるキャラクターです。困難が多い時代でも強く生きる主人公を書きたかったんです。元々気の強い私の脚本だけでは言葉だけが強い印象になりそうなところも、伊藤さんの演技を通してみると印象が変わります。ドラマになったときに、より視聴者に伝わる物語になるはずだと自信を持って書くことができています。