「子どもを叱るのはもうやめる」と決めた公立小学校 褒める技術磨く先生たち、職員室まで明るくなった #令和の子
埼玉県戸田市にある市立喜沢小学校は2020年、常識を打ち破る、ある取り組みを始めた。先生が子どもを叱らず、常にポジティブに接し、「望ましい行動」を児童が取ればすかさず褒める。先生同士も普段から褒め合う。授業1コマの45分間に、55回褒めた先生もいるというから驚きだ。 米国発祥というこの取り組み、本当なら素敵だなと思う一方で、「きれい事」に聞こえなくもない。「時には叱ることも必要では?」。そんな疑問を抱きながら現地に向かうと、先生たちの笑顔が職員室に満ちていた。一体、何が起きたのか。(共同通信=小田智博)
秘訣は「すぐ」「個に合わせて」「具体的に」
喜沢小学校は全校児童約400人。戸田市の住宅街に位置する。 6月22日、6年2組では昼休み後の5時間目、家庭科の授業が始まった。授業のテーマは、校内を巡っていろんな種類の汚れを見つけること。タブレット型端末を手にした男児が床にひざを付き、テレビ台の下に積もったほこりを撮影している。その様子を見た担任の中村和絵教諭はすかさず声をかけた。「探偵みたい。細かいところに目を付けていて、いいですね」 先生たちは、褒める際のポイントとして次の3点を意識している。(1)すぐに(2)個に合わせた行動や言葉で(3)具体的に―。中村教諭の声かけは、確かに3点を満たしている。 中村教諭が廊下に出ると、ある児童が手洗い場を撮った写真を見せてくれた。「あっ、いいね。水回り、普段はちゃんと掃除しないもんね」。教諭は感心したように言う。教諭の後をついて校内を巡ると、この時間に約30回、肯定的な言葉を発していた。
準備ができている子を褒めることで、そうでない子どもに波及
実は中村教諭は別の小学校から今年4月に転任したばかり。それまでは当たり前のように叱っていただけに、当初は「一番合わない学校に来てしまった」と思った。でも教壇に立つとすぐ、子どもたちの自己肯定感の高さに気が付いた。「いつも肯定されているためでは」と感じた。 褒めることを意識して毎日を過ごすようになると、自分自身、子どもを見る目が変わってきた。 「これまでは『6年生ならこうあるべき』などと考え、できないことは叱ってやらせた。今は、できている面に目を向けるようになった」 気恥ずかしさや照れくささはまだあるが、褒めることの意義を実感しつつある。 6月の別の日には、6年1組の1日を見学した。担任は横地真央教諭。2時間目の授業開始のチャイムが鳴るとすぐ、クラス全員に向かってこう伝えた。「言われなくても、授業の準備をしていますね。偉いですね」 喜沢小で「望ましい行動」の一つに挙げられている、「次の時間の準備をしてから遊ぼう」。実は必要な道具が机上に揃っていない子もいた。しかし、横地教諭は叱って直させることはしない。準備ができている子を褒めることで、そうでない子どもにも望ましい行動が波及してくれたら、と思っている。同じような声かけを続けたり、黒板に書いて促したりするうち、準備の習慣が徐々に定着してきているという。