頻度高まる日米訓練なぜ? 第1列島線の要所、「機雷除去訓練」に透ける台湾有事シナリオ…専門家「自衛隊への信頼を盾に一体運用が深化」
10、11月に鹿児島県内で自衛隊と米軍が南西諸島を中心に展開した日米共同統合演習(キーン・ソード)を実施した。その後も鹿屋市の海上自衛隊鹿屋航空基地を起点にした哨戒機訓練、志布志市の志布志港や日向灘で計画された機雷除去などの訓練(福岡沖の掃海艇沈没により中止)があった。日米共同の訓練が相次ぐ背景と課題を沖縄国際大の野添文彬教授(国際政治学)に聞いた。 【写真】〈関連〉沖縄国際大・野添文彬教授
-県内で日米共同の訓練が続いた。 「地理的重要性が高いからだ。米国は日本列島から台湾、フィリピンまでの第1列島線で中国の勢力拡大を抑え込むことを目指している。沖縄を含む南西諸島から九州は重要地点だ」 「もう1つは鹿児島に自衛隊基地があること。米国は沖縄の米軍基地が中国のミサイル攻撃に対して脆弱(ぜいじゃく)だと考え、有事に自衛隊基地や民間施設を使う戦略を持つ。訓練を重ね、円滑に作戦を進める狙いがある」 -注目する訓練は。 「志布志港などで計画された掃海訓練が興味深い。台湾有事は中国軍が大規模侵攻するよりも、台湾を海上封鎖しながら進めるシナリオが有力視され、米軍が台湾に近づけないように機雷を使う可能性がある。日米共同で機雷を除去する能力が重要だと言われる」 「海上自衛隊の機雷訓練は伝統がありお家芸。米軍は期待を寄せている。訓練地点を志布志港にまで広げたのは、有事に拠点とする地ならしとみることができる。志布志港は特定利用港湾に指定されている。インフラ整備を進め訓練拡充への対応や有事の拠点にする狙いだろう」
-共同訓練に対し、地元の反発は一部にとどまる。 「自衛隊が一種のクッション(緩衝材)になっていると考えられる。米軍が共同演習という形でやって来るのはやむを得ない、と住民は思うのかもしれない。日本人の自衛隊に対する信頼を活用しながら米軍との一体運用が深化している」 ◇民間施設利用のルール明確化必要 -地域は訓練にどう向き合うべきか。 「米軍が民間施設を使う際の取り決めを明確化するべきだ。米軍は日米地位協定に基づき、どの民間施設も使える。いざとなったら好き放題に振る舞える。沖縄国際大に米軍ヘリコプターが墜落した際、まさに可視化された。大学が1週間占領されたような事態が全国で起こり得る」 「中国は大規模戦闘には至らない形で海洋進出を進めるグレーゾーン戦略をととり、日米は大規模な共同訓練でけん制する。インフラから半導体まで民間のものを軍事転用するデュアルユースも進む。有事と平時、軍と民の境目がなくなってきたからこそ米軍の動きを注視すべきだ」
-住民からは訓練内容が分からないことへ不安の声も上がる。 「軍事機密の全てを公開するのは難しいだろうが、地域の理解がないと自衛隊や米軍は活動できない。情報公開が必要だ」 -現在の日米共同訓練の在り方をどう考えるか。 「抑止力の重要性は理解できる一方、沖縄の基地負担を解消しないまま自衛隊が増強され、全国へ日米共同訓練が広がっている。負担の上に負担を重ねることになり問題だ」 ◇ のぞえ・ふみあき 1984年生まれ。一橋大大学院修了。オーストラリア国立大アジア太平洋学術院博士訪問研究員を経て、2024年10月から沖縄国際大法学部教授。著書に「沖縄米軍基地全史」など。
南日本新聞 | 鹿児島