大阪桐蔭へリベンジ誓う公立進学校・寝屋川高の異彩を放つ“高偏差値野球”
投手は計9人いるが練習メニューも個人がそれぞれ課題を元に作ってバラバラだ。 エース藤原のトレーニングも研究を重ねて合理的。「ピッチャーのスタミナ強化に長距離は必要ないんです。心拍数的なものより筋疲労的な部分を強化すべき」と、短距離のダッシュ系メニューをメインに走りこみ、1週間に3度、100球以上を投げ込む。すべて「実戦を想定して」打席に打者を立たせ変化球の曲がりをどう感じるかの意見を聞く。 投球フォームチェックは自宅に帰って鏡の前でのシャドーピッチング。藤原は、多彩な変化球を持っているが「ユーチューブの映像の握りなどを拡大して」自分で会得した。 「僕がバッターとして一番嫌なのはストレートに見えてボールが曲がるピッチャーなんです。私立は打球のスピードが違います。そこにどんなピッチングをするか。そういうチームの選手は欲張るので、逆手にとって甘いコースからピュッと曲げてやるんですよ」 私学が公立高に抱く打者心理を逆手に使う。 ちなみに彼の理想の投手は「メンタルが強い」楽天の美馬学だそうだ。 ただ走塁と守備に関しては別だ。ここに寝屋高の強さの秘密がある。 蓄積した走塁のテクニックは何十種類も。新1年生は、まずそれを覚えることから始める。部外秘の部分なので、その内容は詳しく書かないが、例えばスタートを切ったランナーがわざと転倒してバッテリーの焦りを誘うというような陽動作戦もある。サインも細かく三塁コーチャーのジェスチャーに関しても数種類が用意されている。 年間、100試合ほど練習試合を組むのも特徴だ。土日だけでなくナイターでもやる。チームをA、Bに分けて控え組にも実戦機会を与える。しかも、私学の強豪との試合が少なくない。 「実は、私が寝屋高に赴任して1年目の夏に1回戦で履正社と当たったんです。そのとき経験したことのない速さの打球が飛んできて選手が対応できていませんでした。こんな不幸はないと思ったんです。そのレベルの野球を体験し免疫をつけておかないとダメだと」と達監督。 たいていの場合、強豪高は公立の進学校などと練習試合は組んでくれない。だが、達監督は人脈と熱意でぶつかった。例え相手がBチームであっても頭を下げ翌日には、必ずお礼の連絡を入れる。八幡商高には面識なく電話をかけて試合を組んでもらった。話題となった大阪桐蔭とも、すでに2試合練習試合を行っていた。 その練習試合で走塁技術とチーム力を磨く。 「試合では失敗してもいいんです。ただ、正しいプレー、理由のあるプレーをしているか、どうか。そこができていない時は叱ります」 藤原曰く「土日の試合で、次の1週間での練習課題を見つける」というサイクルでチームをビルドアップしている。 冬場も実戦を継続するのも特徴だろう。打撃練習だけでなく紅白試合も毎週行う。もちろん、進学高ゆえ、私学に比べて身体能力に恵まれた生徒も少なく、その肉体作りも課題だ。オフの体重増加が義務づけられていて1週間に100グラム増やすのがノルマ。できていなければ罰則走がある。 ――測定の前に100グラム水を飲めばいいじゃない? そうよこしまに言うと藤原に怒られた。 「それ意味ないですよね。なんのためにトレーニングしているのか。本質を見誤っていますよね」 なるほど。そういうことか。このチームの強さの一端をかいま見た気がした。 シーズン中も週に3度、フィジカルトレーニングの日を設定している。部室の地下に各運動部共通の立派な施設があり、藤原などは「自分で重いボールや手首のトレーニングをして」球速が最速137キロまで増した。 「チームにもスピードガンがあるんですが、10キロ遅く出るので。よその学校で計った最速です」と笑う。 そして寝屋川の強さを語る上で特筆すべきが、試合の戦術、戦略にある。 (明日掲載の下に続く。文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)