ドラマ「梨泰院クラス」など字幕翻訳 金光英実さん(焼津出身)に聞く 韓国の“闇”に見る日本
今年のノーベル文学賞は韓国の作家ハン・ガン(韓江)さんに贈られることが決まった。文学のほか音楽や食、ファッションなど、今や韓国コンテンツは身近に。とりわけドラマや映画は幅広い世代を引きつけている。約30年ソウルに住み、映像の字幕翻訳を手がける金光英実さん(53)=焼津市出身=は新著「ドラマで読む韓国 なぜ主人公は復讐[ふくしゅう]を遂げるのか」(NHK出版新書)で、物語に登場する食や教育、人間関係などを切り口に韓国の実相を紹介している。「キラキラした面ばかりでなく、そこに潜むドロドロした部分も知ればより韓国を楽しめる」と話す。 韓国ドラマは、2003年に日本で韓流ブームをつくった「冬のソナタ」をはじめ、ラブロマンス系のイメージが強い。しかし、金光さんによると近年サスペンスやミステリーが充実し、現地でも関心が高いという。中でも「群を抜いている」(金光さん)というのが復讐を扱うドラマ。いじめ被害者が加害者を計画的に破滅に追い込んだり、財閥企業への恨みを過去に戻って果たしたり。その背景を「階級社会であることなどから、一般市民は裁かれるべき人がきちんと裁かれていないという不満を抱いている。ドラマによって“代理満足”を得ているのだと思う」と分析する。 著書の中で「こうした韓国の“闇”を知ることは、日本の未来を考えることにつながる」と強調する。例えば、韓国は女性1人が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が日本より低く、その一因に教育費の増大が挙げられている。ドラマでも生活環境による教育格差や激しい受験戦争、子供への弊害がたびたび描かれ「日本のそう遠くない姿かもしれない」。 広告代理店を辞め、海外留学を模索する中で韓国に渡った。飲食店に居合わせたテレビ局幹部と意気投合し、字幕翻訳を始めるきっかけに。「酒席でビジネスが広がっていくのが韓国らしい」と笑う。現在はウェブマンガなども含め週3、4作品の翻訳を手がける。「字幕翻訳は文化を翻訳するようなもの。多様化する韓国のコンテンツから、隣国の素顔を知ってほしい」 かねみつ・ひでみ 1971年生まれ。清泉女子大卒。広告代理店勤務を経て96年に渡韓。ペ・ヨンジュンさん主演「愛の群像」を皮切りに、近年はネットフリックスで配信された「梨泰院[イテウォン]クラス」や「涙の女王」「となりのMr.パーフェクト」などの字幕翻訳を担当した。現地の翻訳者育成機関で講師も務める。
静岡新聞社