青学V3有力の第93回箱根駅伝は世界へつながるレースとなるのか?
今大会は一色恭志(青学大)、服部弾馬(東洋大)、塩尻和也(順大)、關颯人(東海大)などが注目ランナーになるが、トラック5000m、1万mの活躍度はイマイチだった。1万m28分台が大幅に増えるなど、全体的なレベルは格段に上がっているものの、「学生長距離界のエース」ともいうべき、飛び抜けたレベルの選手が見当たらないのだ。 今回1万mで日本人最速タイムを持つのは中谷圭佑(駒大)で28分17秒56。日本選手権の5000mでは一色が学生最上位の4位に入ったが、リオ五輪の日本代表に食い込むほどの実力はなかった。 ちなみに過去1万mで27分台に突入した日本人学生ランナーは12名いる(添付表を参考)。 時代背景を考慮すると瀬古利彦(現・DeNAランニングクラブ総監督)のタイムがずば抜けて良い。78年当時の男子1万m世界記録はヘンリー・ロノの27分22秒47。瀬古は29秒しか違わなかった。続いて渡辺康幸(現・住友電工監督)だ。95年当時の同記録はハイレ・ゲブレシラシェの26分43秒53。1分05秒という大差をつけられているが、渡辺は同年の世界選手権1万mで決勝に進出して、12位に食い込んでいる。 現在の世界記録はケネニサ・ベケレが保持する26分17秒53(05年)。日本人学生最高タイムを持つ大迫傑(現・Nike ORPJT)で1分21秒差、現役日本人学生最高の中谷とは2分00秒もの開きがあるのだ。 箱根駅伝は日本国内だけで喝采を浴びている特殊なスポーツイベント。町内会の運動会と同じで、レベルの云々は関係なく、盛り上がればそれでいいのかもしれない。ただし、ニッポンは2020年に東京五輪を開催する立場だ。日本の人気種目であるマラソン・長距離で東京五輪を担う逸材が果たしているのか。本気で箱根から世界を目指す気持ちがあるなら、先人たちが刻んだ個人記録の更新を真剣に狙ってほしい。 箱根駅伝でハイレベルの記録は、1区と2区のタイムだ。1区は第83回大会(07年)で当時2年生の東海大・佐藤悠基(現・日清食品グループ)が終盤、脚をけいれんさせながら1時間1分06秒の区間記録を樹立。2区は早大・渡辺康幸の記録を、第75回大会(99年)に順大・三代直樹が2秒上回り、1時間6分46秒の日本人最高タイムをマークしている。この2つの記録を超えることが、世界への第1歩になるだろう。 青学大・原晋監督は昨年のチームを「学生史上最高」と表現していたが、「チーム力は今年の方が強い」と話しているだけに、箱根では力強い走りを見せてくれるはずだ。そして、ダントツV候補の青学大に対峙するために、有力校の指揮官たちは勝つための戦略を練っていることだろう。 全日本のように優勝ラインが下がったなかでの接戦ではなく、箱根では将来性とスピード感あふれる熱いレースを期待したいと思う。 (文責・酒井政人/スポーツライター)