カミナリ・石田さん投稿 「メロンで優勝した父ちゃん」に思い聞く プロ意識、親子で互いに尊敬
「初代王者、すげぇな」
「父ちゃんがメロンの賞レースで優勝しました」。16日の「父の日」が近づく中、メロン農家の父の快挙を喜ぶ気持ちをつづった投稿をSNS上で見つけた。投稿主はお笑いコンビ「カミナリ」の石田たくみさん(35)。本紙「農家の特報班」が本人を直撃。投稿に込めた思いを探った。 【写真で見る】和徳さんが栽培した赤肉メロン 「父ちゃん、すげぇな」と快挙に感動し、自らのXに投稿したというたくみさん。父、和徳さん(64)は茨城県鉾田市でメロン90アールを栽培。メロン生産量日本一の茨城県が開いた品評会のうち、今年新設された赤肉部門で、最高賞に輝いた。 たくみさん自身、国民的漫才コンテスト「M―1グランプリ」決勝に2年連続で出場したが王座には届かなかった。それだけに「チャンピオン、しかも初代ですからね」と脱帽する。相方の竹内まなぶさん(35)と一緒に、メロンの形の手作りトロフィーも用意した。 子どもの頃から、メロン栽培に全力を注ぐ父の姿を目の当たりにしてきた。家族そろっての外食の日。雨が降り出すと、和徳さんは行き先を急きょ変更。メロンを栽培するハウスに雨が入らないよう開口部を閉じる作業に向かってしまった。 当時は「何でだよ」と憤ったたくみさん。ただ、今振り返ると「プロとしての行動だったんでしょうね」と感じる。 「父の日」を前にたくみさんに改めて父へのメッセージをもらった。「自分もいつか、父ちゃんみたいな賞の取り方ができたら最高に格好いいな」。快挙を成し遂げた父への憧れがあふれる内容だった。
父からもエールの言葉
たくみさんへのインタビュー後、記者は鉾田市に向かい、和徳さんに会うことができた。 たくみさんからのメッセ―ジを伝えると和徳さんは少し照れくさそうな表情を浮かべながら「今までの道のりを見ていてくれたのかな」と話し始めた。就農して40年。メロンの糖度や網目の美しさにこだわり、ハウス内の温度管理に、とりわけ心血を注いできた。 たくみさんが保育園児だった頃のお遊戯会当日。天候が急変し、舞台は見ずにハウスに駆け付けた。「たくみには悪いことをした。でも、良いものを作らないと家族を養えないから」。メロン栽培のプロ、そして家族を守る父としての矜持(きょうじ)を貫く姿勢は、当時から変わっていない。 たくみさんのコンビ「カミナリ」が「茨城なまりのどつき漫才」で人気を集め、飛躍した2017年。「カミナリのお父さんのメロン」とファンが購入することも増えた。和徳さんは「こっちは味で勝負して30年以上たつのにな」と複雑な思いを抱えていた。 ただ、和徳さんのメロンの味はファンをもうならせ、翌年も購入する人も出てきた。「味が良いからリピーターが付くんよ。それはお父さんの努力だからね」という妻のかおりさん(65)の一言で、「もやもやした気持ちも消えた」。 和徳さんのメロン農家としての技術の高さは、自身が栽培した「クインシー」がいばらきメロン品評会KING&QUEENコンテスト2024」の赤肉部門の最高賞、ゴールドマイスター賞を獲得する形で証明された。 たくみさんは、和徳さんの功績を伝えるXの投稿にあえて、お笑いコンテストでよく使われる「賞レース」という言葉を使った。「お笑いファンの人も注目してくれるかなと思って」と打ち明ける。 自身が果たせなかった「賞レース」での栄冠を実現させた和徳さんを尊敬しつつ、自分も負けてられないという気持ちも込めた。 今度は和徳さんに、たくみさんへのメッセージを尋ねた。和徳さんは「『あの時にやっておけば』と思うようでは駄目」と、常に全力で仕事に臨むことの大切さを訴えた。 「メロンは出荷直前まで気が抜けないし、芸人も、どこにチャンスがあるか分からないんじゃないかな」とエールを送る。 記者は取材を終え、たくみさんに和徳さんのメッセージを伝えた。「お互い、プロフェッショナルとして頑張りましょう!」との言葉が返ってきた。 お笑い芸人とメロン農家──。進む道は違っても、互いを尊敬する父子。プロに徹する姿勢は受け継がれている。(志水隆治、撮影=鴻田寛之、山田凌)
日本農業新聞