「じつは多様性の世界はしんどい」…いまを生きる令和世代へ、鴻上尚史が「多様性神話」の影にある「協働」の大切さを説く
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行する。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第2回 『「“君”はどう生きるか」...なぜ作家・鴻上尚史は“君たち”ではなく、“君”と呼びかけたのか。多様性の時代に問われる“個”の生き方とは』より続く
「協調性」を重んじる国民性
昔、日本では「協調性」がとても強調されました(ダジャレみたいですね)。 「みんなでひとつになる」ということが大切だと言われたのです。 それは、同じ方向を見て、同じものが好きな人が多かったからです。 例えば――1年の最後12月31日の夜は、君はどう過ごしますか? 1963年、「紅白歌合戦」というNHKのテレビ番組の視聴率は、81・4%で、1984年までは、ほぼ70%前後でした。 これがどれほどすごい視聴率かというと、例えば、2022年、サッカーワールドカップの「日本対ドイツ戦」が23・2%だということでも分かるでしょう。 日本中が大騒ぎしたと思われているサッカーの試合でも、20%台前半の視聴率です。81・4%ということは、ほぼ日本人全員が見たと言っても言い過ぎではない数字です。
時代は「協調性」から「多様性」へ
君は信じられないでしょうが、この時代の「紅白歌合戦」で歌われた曲は、大人も子供もほぼ知っていました。ほとんどの曲を歌えたのです。 この時代の記憶が忘れられなくて、なにかあると「協調性」を強調する大人がいます。そういう人は、「こころをひとつに」「ワンチーム」「絆」「みんな仲良く」「団結」なんてことを何度も言います。 まとまることが当然で、それは、無条件でいいことだと思っている大人たちです。 でも、時代は「協調性」から「多様性」にゆっくりと移っています。それは、「ひとりひとり、みんな違っているよね。同じじゃないよね」とお互いのことを知るようになったからです。 大晦日に「紅白歌合戦」をみんなでそろって見るという時代には、もう戻れなくなったということです。君はテレビなんか見ないで、ネットの動画を見るかもしれません。でも、君の家族はその動画に興味を示さない可能性が高いでしょう。 「ひとりひとりが自分の好きなものを見る」というのは素敵な時代です。誰もガマンしないで、自分の好みを追求できるのです。 でも集団でいろんなことをする時には、うまくいかないことが起こるかもしれません。みんな違うことを考えているからです。