J3で3年目・松本山雅の現状 PO圏内に肉薄…逆転J2昇格へ“命運を託された”3人のキーマン【コラム】
大ベテランが挑むJ3という未知なる環境への参戦
そしてもう1人、逆転昇格に不可欠なのが、大ベテランの山本康裕。2008年にジュビロ磐田のアカデミーからトップ昇格を果たし、2023年までキャリアのほとんどを名門で過ごした男が新天地に赴いたのは今季頭のこと。J3という未知なる環境への参戦ということで、本人も戸惑いや難しさを感じていただろう。 「今年は『ここぞ』という時にことごとく勝ててない。でもJ2昇格プレーオフというレギュレーションに助けられている。6位まで昇格のチャンスがあるので、そこに何とか滑り込んでいきたい。自分や(高橋)祥平が後ろからサポートするんで、若い選手にはこういう状況の中でも硬くなったり、緊張することなく、思い切ってやってほしい」と35歳の大ベテランは苦境の中でも黒子になってチームを力強く支える覚悟だ。 今回のYSCC戦を見ていても、攻め込まれても慌てずに試合を運び、冷静にゲームをコントロールする山本の落ち着きと戦術眼が特筆すべきものがあった。10人の相手に押し込まれた後半はサポーターから「もっと前へ行け」「攻めろ」といった声も飛び交い、焦燥感をにじませた選手もいたが、山本は「リードしていたんだから、別に後ろで回していれば問題ない」と決して動じなかった。 彼のようにどっしり構えた人間が中央に陣取っていれば、チームもブレずに戦えるはず。そこは21歳の中村も強調している点だ。 「康裕君はとにかくうまい。寡黙な方ですけど、トレーニングもアップからめっちゃちゃんとやるし、選手の鑑みたいな存在。やっぱりこういう選手が生き残っていくんだなと感じるし、参考にせないかんなと思います」 多くの選手からリスペクトされる百戦錬磨の山本。ラスト4戦で6位以内を勝ち取るためには、彼の統率力や経験値が必要不可欠。プロ生活の全てを注ぎ込んで、奇跡の逆転昇格の立役者になるしかない。 J1経験クラブの命運を託されたキーマン3人。彼らの動向から目が離せない。 [著者プロフィール] 元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。
元川悦子 / Etsuko Motokawa