地中熱ヒートポンプとは何かをわかりやすく解説、知っておきたい仕組みと導入事例
ヒートポンプの設置状況
国内の導入状況については、ひとことでいうと、「あまり普及していないけど、増えているといえば増えている」というのが現状です。 環境省によると、地中熱ヒートポンプの設置は全国で3200件あまり(2021年度末時点)。設置ペースはピーク時(2010年代半ば)の年間300件超に比べると減速していますが、近年でも年100件程度で推移しています。 すっかり日常風景の一部として定着しつつある太陽光パネルに比べると、導入は順調とはいえないようです。初期コストに比べたランニングコスト削減効果を予測することが難しいことなどが背景にあるようです。 ちなみに、日本と同じくらいの面積のドイツやフィンランドでは日本の10倍以上の地中熱が利用されています。国面積の小さいスイスやオランダでも、日本の約7倍以上という状況です。
大阪、愛媛、島根など、全国各地の導入事例
北海道や東北地方では早期に導入が進んできましたが、最近では西日本でも地中熱への関心が高まっています。地中熱ヒートポンプの導入が進んでいる西日本の自治体の事例を紹介します。 ・愛媛県八幡浜市 愛媛県八幡浜市は2023年2月、地域の脱炭素を推進するモデルとするため 、市民スポーツセンターに地中熱システムを導入しました。冷暖房を使用する1階ロビー系統、2階サブアリーナ系統で2台ずつ地中熱ヒートポンプを設置しています。導入前のシステムに比べてCO2排出量を約40%削減できるといいます。 このシステムには、全世界でみても珍しい「セミクローズドループ方式」(地下水移流型熱交換器)が採用されています。地中熱利用で先行する欧州で生まれたクローズドループ方式が設備周囲を珪藻土などで固めるのと違って、地下水の流れを利用して熱伝導効率を高める仕組みです。 日本のように雨が多く急峻な山々が多い地域では、今後導入拡大が期待される方法といいます。 ただ、熱交換器が地中に埋没されているなど導入イメージが分かりづらいです。同市では市民に仕組みや効果をリアルタイムで理解してもらうため、1階ロビーに大型モニターを設置するなど「見える化」にも取り組んでいます。 ・島根県邑南町 島根県邑南町では、道の駅「邑南の里」の2025年夏のリニューアルオープンに合わせ、地中熱を活用した融雪設備の導入を進めています。 人口1万人を切り、豪雪地域でもある同町では、除雪にかかるランニングコストの高さに加え、除雪の担い手不足が大きな課題となっています。地中熱は、この2つの課題を一気に解決できる策として期待されています。 ・大阪市 大阪市では、大規模オフィスビルの冷暖房用熱源として地中熱を活用しています。この地域は地下水を豊富に含む「帯水層」が広がっており、専用の井戸から大容量の地下水を汲み上げたり戻したりすることで熱を抽出。夏には冷房用の冷水を作ると同時に、発生する排熱を地下に蓄え、冬の暖房用のエネルギー源として再利用する一方、冬は暖房用の温水を作りながら、夏の冷房用の冷水を蓄えるという仕組みです。 季節によって井戸の運転を切り替えることで、従来のシステムに比べて35%の省エネ効果が確認されたといいます。うまくいけば、大阪市の区役所庁舎に相当する規模のビルの空調をまかなえるそうです。 天候に左右されず、省エネ効果が高く、CO2削減にも貢献できる地中熱ヒートポンプ。政府が掲げる2050年カーボンニュートラル達成に向けた切り札に……なってほしいところですが、現状ではあまり導入が進んでいません。初期コストを下げるイノベーションはもちろん、既存建物の改修によってコストを下げつつ導入事例を増やすなどの工夫を通じ、導入のハードルを下げる必要がありそうです。
執筆:三上 剛輝、編集:ジャーナリスト 川辺 和将