意識をコンピュータにアップロードする手順を紹介しよう。カギは、生体脳半球と機械半球の意識の統合と、記憶の転送だ!
機械半球との接続──意識の統合
あなたの脳に挿入されたBMIの表面には、特殊なタンパク質がコーティングされている。このタンパク質のはたらきにより、神経線維の切断面とBMI表面との間に新たなシナプスが形成される。 数日置いて十分にシナプスが形成され、堅固なハード-ウェット・インターフェースが構築できたところで、いよいよ機械半球とのご対面となる。 この機械半球はニュートラルな意識のみを宿すもので、記憶や人格をもたない。あなたの意識が乗っ取られたり、変貌したりはしないので安心してほしい。 ちなみに、あなたである生体脳半球と機械半球とをBMIを介して接合しただけではほとんど変化は生じない。せいぜい、存在しないはずの左視野にかすかな光がちらついたり、感じないはずの左半身にわずかな皮膚感覚があらわれたりするくらいだ。 顕著な変化が訪れるのは、次の「ニューラル・ルーティング」の段階に入ってからだ。このプロセスでは、BMIを介して生体脳半球と機械半球の然るべきニューロンどうしをつないでいく。 視覚野のニューラル・ルーティングがはじまると、失われていたあなたの左視野が徐々に回復していく。序盤、旧式のアナログテレビのチャンネル調整をするかのごとく、サンドストーム(砂嵐ノイズ)のなかに時おり何かがあらわれるようになる。ただ、怖がりの方はその何かをあまり覗き込まない方がよいだろう。ピカソの描くようなモザイク状の顔や、イヌとネコが混ざり合った魑魅魍魎を目にすることになる。その後、ルーティングが進むにつれ、やがてサンドストームもおさまり、現実を反映した辻褄のあった視覚世界が立ちあらわれる。 次のステップで運動野と体性感覚野のニューラル・ルーティングがはじまると、存在を消していたあなたの左半身がすこしずつ再建される。どろどろのスープのようなかたちで最初蘇った皮膚感覚は、だんだんと身体の輪郭をもちはじめる。アメーバのように曖昧模糊としていた手足の運動感覚はすこしずつ関節ばり、意のままに動かせるようになる。 ニューラル・ルーティングのプロセスがすべて終了した時点で、生体脳半球と機械半球の意識は統合される。