秘策は…。日本代表「右サイド」の切り札。伊東純也離脱で講じるべき次の手【アジアカップ2023現地取材コラム】
サッカー日本代表は3日、AFCアジアカップカタール2023準々決勝でイラン代表と対戦する。伊東純也がチームを離脱したことで、右サイドの選択肢は1つ減る。優勝候補同士の対戦は拮抗した展開が予想されるだけに、日本代表は複数のプランを用意しているかもしれない。(取材・文:元川悦子【カタール】) 【画像】サッカー日本代表、イラン戦の予想フォーメーション
●伊東純也が抜けたサッカー日本代表の右サイド 一部報道による伊東純也を取り巻く問題で二転三転していたが、最終的には2日に伊東の離脱が決まり、3日のアジアカップカタール2023準々決勝・イラン代表戦以降は”右の槍”抜きでの戦いを余儀なくされる。 さしあたって、イラン代表戦では好調の堂安律が3試合連続でスタートから出場して、攻撃陣を引っ張ることになりそうだ。 堂安は1月31日のバーレーン代表戦で待望の今大会初ゴールをゲット。10番を背負って挑んでいる初のビッグトーナメントでゴールを奪ったことで、日本代表も彼自身も弾みがついたことだろう。 「10番が取ると盛り上がる? たぶん、チームメートも背番号とかはあまり気にしていないので、あまりどうでもいいと思いますけど。10番が取ると言うよりも、僕が取るとそうなると思います」と本人も不敵な笑みを浮かべる。確かに今の堂安は気迫あふれるプレーが際立っている。 19日のグループリーグ第2戦・イラク代表戦で敗れた後も「ベトナム戦、イラク戦の立ち上がりの球際とかをワールドカップでやっているのかと言ったらそうじゃない。そのベースとなる部分をまずやるところは見せたい。それプラスアルファでエクストラは後からついてくる」と強調していた。スタートから高い強度で向かっていく強気な姿勢を見せ続け、インドネシア代表戦、バーレーン代表戦とチーム全体に活力を与えてきたのだ。 とりわけ、縦に並ぶ毎熊晟矢、トップ下から右に流れてくる久保建英との関係性は試合を重ねるごとに研ぎ澄まされている。 ●右サイド・堂安律の次の手が必要に… 「タケ(久保)はボールに触って生きるタイプで、僕は消えていてもゴール前に絡めるタイプ。それを意識しましたし、あとはマイクくん(毎熊)が迷いのない思い切ったプレーが特徴なので、ディフェンスにしてもファーストディフェンダーで自分がプレスをかけてあげると彼の良さが出る。僕がふわっと行かないようにしました」 堂安は2人の特徴を踏まえつつ、お互いが生かし生かされる関係性を構築し、結果を出せるようになったことを明かす。 その堂安を軸とした右のトライアングルがイラン戦も鍵になるのは確か。だが、相手もそこは研究してくるはず。特に対面に位置する33歳の左SBエフサン・ハジサフィは対人守備の高さに加え、国際経験に秀でており、戦術眼もある。堂安が仕掛けようと思っても簡単にはやらせてもらえないかもしれない。 しかも、ボランチのサイード・エザトラヒや左MFメフディ・ガエディらにボールを刈り取られてカウンターの餌食にならないとも限らない。久保や毎熊と協力しながら、いかにして相手のギャップを突いていくのか。堂安が持ち味の左足シュートを放てるのか。それを模索していくことが肝要だ。 31日のシリア代表戦でPK戦を制したのを見ても分かる通り、イランの粘り強さは侮れない。日本も120分間の死闘を覚悟しておいた方がいい。となれば、堂安1人だけで乗り切るのは難しい。伊東を欠く中、右の「二の矢」「三の矢」を考えておかなければ痛い目に遭う。そこが森保一監督の手腕の見せどころになる。 ●久保建英のスライド以外に考えられるのは… 策としては、久保の右サイド起用、浅野拓磨や前田大然らスピード系FWの抜擢などが考えられる。 久保に関しては、イラク戦の後半もその位置でプレー。南野拓実をトップ下に起き、伊東を左に回したところ、前半の停滞感を一気に払拭できた。 「右の時には基本、オーバーラップしてもらって使うか、使わないかは僕の判断だと思います。(所属)チームでも本当にうまくいっているので、途中からトップ下で出たとしても、自分が右に行くこともあると思いますし、逆もあると思うので、どちらでも対応できるようにしている。右のプレーは、僕はもともとチームですごくうまくいっているので、全く問題ないです」 久保自身もやる気満々で、縦関係を毎熊、菅原由勢(AZ)のどちらと組んでも連動できるのが久保のいいところ。時間帯や状況にもよるが、久保を右で使う場面が増えるかもしれない。 スペースがある状況であれば前田、浅野でもいい。もちろん伊東ほどのキレや鋭さ、ゴールに直結するオン・ザ・ボールの動きはやや難しいかもしれないが、彼らには彼らの良さがある。特に相手が高い位置を取ってきた時に背後を取る動きは伊東同等かそれ以上かもしれない。 特に前田は昨季セルティックでハリー・キューウェル・コーチから速さを生かした仕掛けを個人的に指導され、ドリブラーとしても成長している。今大会はそういう良さがまだあまり出てはいないが、ここ一番で仕事ができる選手なのは、FIFAワールドカップカタール2022を見ていても分かること。相手が疲れた時に投入する駒としてはいいチョイス。前田にも短時間で持ち味を出すべく、いいイメージを作ってほしい。 ●サッカー日本代表が密かに準備する秘策? もう一案として考えられるのが、3バックの採用だ。イランは大黒柱のサルダル・アズムンとカリム・アンサリファルドの長身FW2枚を同時起用してくる可能性もあるため、森保監督としては冨安健洋、板倉滉と町田浩樹の3枚を最終ラインに並べ、右サイドに毎熊か菅原、左に三笘という配置にすることも十分あり得る。 そうすれば、伊東が不在のマイナス影響を最小限にとどめられるし、空中戦やリスタートで劣勢に陥るリスクも軽減できる。もしかするとイラク戦では最初からこの形を採るかもしれない。 いずれにしても、伊東抜きの戦い方をしっかり確立していかなければ、イランを倒すのはもちろんこと、先々のカタール代表や韓国代表といった宿敵を撃破して頂点に立つのは難しくなる。 これまでアジアでは伊東の個の力に依存しがちだった試合もあるだけに、ある意味、今回のアクシデントは伊東への依存を脱却するいい機会になるかもしれない。異なる戦い方を見出し、それで勝ち切り、チームとしても一皮むけること。そういった理想的なシナリオを現実にしたいものである。 (取材・文:元川悦子【カタール】)
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