大相撲完売御礼と名刺入れ ~九州場所から節目の1年へ
大相撲の賑わいが明確な数字となって表れた。一年納めの九州場所(11月10日初日・福岡国際センター)を前に、1996年以来28年ぶりに年6場所全90日間でチケットが完売した。例年、他に比べて集客に苦しんでいた九州場所もついに売り切れ。今年に入って尊富士の新入幕優勝や大の里の大関昇進などがあり、力士たちの奮闘による土俵の面白さが中心にあるのは論をまたないが、日本相撲協会全体の取り組みも功を奏した。隆盛の裏にはキーマンとキーワード。見えないところから堅実な下支えになっている。
人間力がもたらした功績
九州場所は入場券を手配する相撲案内所(お茶屋)がないことなどから、券売で苦心してきた。これまでも協会の先発事務所を中心に工夫。昨年は15日間で、約8割以上の客入りで出る「満員御礼」となった。そして今年上積みを図り、完売を意味する「札止め」。成功への道で、新たに九州場所担当部長になった浅香山親方(元大関魁皇)の存在は大きかった。 地元福岡県出身で優勝5度。通算1047勝は史上2位で、幕内在位107場所が歴代最多。〝気は優しくて力持ち〟を地で行く人柄もあって絶大な人気を誇った。今年から協会理事に就任し、九州場所担当部長を任された。残暑厳しい9月2日に福岡入り。「担当部長というか、営業部長という感じかな」と明かしたように、精力的にあいさつ回りをこなした。 福岡県庁、市役所や地元の代表的企業など、以前から相撲協会と関係の深い組織との連携に加え、浅香山担当部長個人の幅広い人脈も効力を発揮した。例えば、福岡県議会の「大相撲九州場所を応援する会」の発足に結び付き、強力な援軍を得た。発会式に際して浅香山部長が県議会の本会議場に登場し、メディアで大きく取り上げられた。有力業界団体とのつながりで、升席を15日間分購入してもらった例もあるという。現役を引退して部屋の師匠になり、協会理事に就いても、気配りや謙虚さを欠かさない浅香山担当部長の人間力が巡り巡って、券売の後押しとなって返ってきた形だ。 10月中旬のある日は午前中に北九州市へあいさつに赴いて午後は福岡国際センター内の先発事務所に戻って業務。夜は地元関係者との会食と、名刺入れが手放せない多忙な日々を重ねてきた。「自分の個人的な用事はほとんどできていないが、場所のためなんでね。本当にいろいろな方々に助けていただいている」。ともに先乗りしてきた場所担当の親方衆と力を合わせながら、九州場所としても28年ぶりとなるチケット完売にこぎ着けた。