取り調べ可視化法 「対象事件3%」より大きな問題点 元警視長が語る
司法取引と通信傍受拡大で新たな冤罪?
拳銃押収の半ば「ノルマ」を押し付けられた捜査現場で当時何が行われたか。「警察と暴力団員との水面下での馴れ合い的な取り引きですよ。『お前がチャカをコインロッカーに入れて、そのあと警察署に電話してくれ。持ち主の捜査はしないから』というような」と振り返る。 コインロッカーなどで押収した所持者を不明とするいわゆる「首なし拳銃」は全国で相当数に上り、「現在の押収量と比べれば、その量の多さに驚くことでしょう。警察官の行為は犯人隠匿や虚偽公文書作成に当たる犯罪です」。 そうした取り引きは新制度の下でも、「検察官や弁護人の知らないところで、被疑者や警察のS(スパイ)との間で行われることは目に見えている」と原田さん。汚職捜査への導入も予想される中、新たな冤罪を生み出す恐れはないのだろうか。 通信傍受の拡大に関してもクギを刺す。「窃盗にまで適用範囲を広げたうえで、外部の通信事業者の立ち合いが不要になれば、捜査とは無関係な通信傍受をチェックする人はいなくなります。付帯決議で捜査に関わらない警察官が監視役を務めるということですが、そんな役割が同じ組織内で機能するとは思えない。『通信傍受には厳しい条件があるので心配ない』との声もあるようです。しかし、それらは警察がどうにでもできることなんです」 今回の刑事司法改革は、法制審議会の特別部会で3年にわたって議論されてきた。捜査機関側からは「可視化は必要な取り調べの足かせになる」「容疑者との信頼関係が崩れて自白が取れなくなる」などの懸念があり、否定的な見方も出ていた今回の改正法。原田さんは最後にこう警告する。 「すべての事件について参考人も含めた可視化を期待していただけに、今回の法改正の内容には大きな失望を覚えています。当初は全面可視化を主張していた日弁連も『一歩前進だから』と賛成してしまった。その一方、新たに警察の権限が強化し拡大されたことは市民にとって危険なことだと思っています」