<城が語る>ハリルJの深刻なピッチ内の会話不足
この試合では、ハリルジャパンのコンセプトである、「少ないボールタッチでの縦へのスピードある攻撃」に加え、ペナルティエリア内で相手のファウルを誘うような積極的な仕掛け、アーリークロス、マイナスのクロス、ミドルシュートなどが、攻撃のテーマとして与えられていたようだが、前半はアーリークロスばかり。しかも、その精度が悪い。 本田、吉田のミドルシュートで2点を奪ったが、局面、局面に対応しながら相手のディフェンスを崩し得点につなげるようなシーンは見られなかった。もっとピッチ内で選手同士がコミュニケーションを深め、臨機応変に自分たちで判断して、攻撃に変化をつけていくべきであったが、そういうゲームの中での対応力、判断力も乏しかった。 後半に入って、トップ下にいた香川と左の武藤が、そのポジションをチェンジ。外に開いた香川のボールタッチが増えてきてから、パスやワンツーを使いカンボジアのディフェンスを引き出すなど、ようやくリズムのようなものが生まれてきたが、最後までチーム全体をチグハグ感が包み込んでいた。 なぜ、こういう事態が起きるのか。私は、アギーレ監督の退任後、就任して日の浅いハリルホジッチ監督が、「フラットな目線での選手選考」と「チームの競争意識」を強調しすぎている影響だと見ている。本田がリーダーシップを発揮せずにおとなしいのも、彼自体もまだハリルジャパン内での確固たるポジションを確立できずに危機感を抱いているからに他ならない。チームの軸となる選手は、そろそろ固定していかなくては、今後も「選ばれたいから言うことを守る」という選手ばかりが増え、ピッチ内での選手による判断や試合展開に応じた変化は期待できず、連携やコミュニケーションというものが一向に改善しないだろう。 今日のような“サッカーになっていないサッカー”では、引いて守る中東の強豪国相手に得点を奪えない可能性が高くなる。ハリルホジッチ監督の指示を含めた伝達能力やゲームマネジメント能力の問題というよりも、選手にピッチ内での考える力、つまり、臨機応変にサッカーを変えていく能力を求めたい。とにかく早急に対応策を練らなければ、2次予選の段階ではまだごまかせるものの、最終予選への見通しは暗いものにならざるを得ない。 (文責・城彰二/元日本代表FW)