センバツ高校野球 選手支える「母」奮闘 息子3人作新OB 自宅改築し下宿に /栃木
第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)に出場する作新学院(宇都宮市)には、甲子園を目指して県内各地から球児が集まる一方、他の私学強豪校のような選手寮はない。2022年5月、遠方出身の生徒や保護者を支えようと、OBの母親が同市内の自宅を改築して朝夕食事付きの下宿を開いた。栄養もボリュームも満点の食事で「けがをしない体を作って」と選手の生活を支えている。【井上知大】 ◇バランス良い食事 健康管理 下宿を開いたのは、3人の息子が同校硬式野球部出身という守谷有希子さん(51)。2階建ての自宅は、作新学院から徒歩で15分かからない距離にある。大幅にリフォームし、1階には大浴場と脱衣所、選手10人が分かれて相部屋で寝る3部屋を、2階には「食堂」をそれぞれ設けた。 ここで寝泊まりする10人に加え、朝晩の食事を共にする選手が4人おり、米を毎朝18合、夜は23~35合を炊く。バランス良い栄養素として知られる「まごわやさしい」(豆、ゴマ、ワカメ、野菜、魚、シイタケ、芋)を意識した献立で、一人一人の体重管理にも気を配る。 実質的な「寮母」として日々奮闘する守谷さんには、長男の翔太さん(26)、次男の拓海さん(24)、長女の菜奈子さん(22)、三男の龍成さん(19)の4人の子どもがいる。以前は夫の両親も同居していたため、大人数の料理は「慣れたもの」。男子3人は小針崇宏監督の下で甲子園を経験した。 かつて同部には選手寮があったが、食事面などで十分な態勢を維持できなくなり2017年秋に閉鎖した。近年は守谷さんの耳にも、高校進学を控えた遠方の有望な選手が「寮が無くて通えない」と他校を選んだという話が届いていた。 「朝早く夜遅い練習は親も大変。食事の準備や送迎で、家が遠い子の親は睡眠時間が2~3時間。近所にあるうちが力になれないか」とかねて考えていたという守谷さん。4人の子育てが一段落したことから、息子たちがお世話になったお礼と「常勝作新を再び」との思いで下宿をスタートした。 センバツ出場校の発表があった1月27日の夕飯は、特別にキャラメルプリンとケーキのデザートを付けた。守谷さんは「出場が決まるまで、選手たちはずっとそわそわしていた。この日はほっとした様子だった」と自身も胸をなで下ろした。 大忙しの日々を送るが「大変ではない……というより、そう思ってしまったら前に進めないの」と冗談混じりに語る。センバツに向けて「体重が落ちると球威やスイングスピードに影響する。夢の甲子園にベストな状態で臨めるよう、おいしく健康なご飯で送り出したい」と語った。 ◇小針監督命名「翔光園」 守谷家総出で「打ち込める環境を」 守谷有希子さん宅の下宿は、小針崇宏監督が「翔光園(しょうこうえん)」と名付けた。小針監督の教え子でもある長男翔太さんの名前と「光満ちたり……」で始まる校歌、そして甲子園の「園」が由来だ。 4月からは、面倒を見る選手がさらに増える予定で、守谷さんだけでは手が回らないため、次男拓海さんの妻と、この春大学を卒業する長女の菜奈子さんを含めた家族総出で下宿を支えていく。 拓海さんが高校3年生だった2016年夏、チームは全国制覇を果たした。「当時の自分たちは、普段の練習や練習試合から高い意識で取り組んでいたので、甲子園では普段通り自分の仕事をできた」と振り返る。拓海さんも仕事が休みの日には実家の下宿で料理などを手伝っており「自分が経験したことを踏まえて、選手たちが野球に打ち込める環境や良い精神状態をつくってあげたい」と話す。 菜奈子さんは、宇都宮短大付属高校の生活教養科出身で料理は得意だ。「選手は『食事も練習のうち』でたくさん食べるのは大変。でも、つらいと思わないですむよう、見た目も中身もバリエーション豊かに工夫したい」と腕をまくった。【井上知大】