奇病で動物化する人々、溶けていく境目 仏映画「動物界」ほか3本 シネマプレビュー 新作映画評
公開中の作品から、映画担当の記者がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。 【場面カット】「ワイルド・スピード」シリーズなどのドウェイン・ジョンソン主演 映画「レッド・ワン」 ■「動物界」 人がさまざまな動物に変化していく奇病が蔓延した世界を舞台にした作品。単なるスリラーではなく、私たちが無意識に持つ「人間と動物は違う」という確信が溶けていくような不思議な感覚を味わわせる。トマ・カイエ監督作品。 仏。政府は動物化した人間の隔離政策を進める。フランソワ(ロマン・デュリス)は、発病した妻が隔離予定の南仏の施設そばに、息子のエミール(ポール・キルシェ)と転居。だが、移送中の事故で、動物化した人々が森に逃げ出し…。 動物化の造形が面白い。特殊メークやCGなどさまざまな手法を駆使。動物とも人間とも違う絶妙な違和感が強い印象を残す。 途中でエミールが発病。剛毛や鋭い爪が生え、背骨が隆起する。しかし、外見の変化よりも、森で眠り、生の魚をむさぼるうちに、エミールの意識が解放されていく過程の描写に力点が置かれる。人間も動物の一種だ、という当然のことを改めて考えさせられる。見終えると世界がちょっと違って見える作品だ。 12歳以下の鑑賞には保護者らの助言・指導が必要。仏映画。 8日から全国公開。2時間8分。(耕) ■「本心」 AIで故人を再現したら、一体何を語るのか。平野啓一郎の同名小説を原作に、石井裕也監督が、デジタル技術が高度に発達した世界で「実感」を見失っていく人々を描く意欲作だ。 近未来。「大事な話がある」と言っていた母、秋子(田中裕子)が急死する。息子の朔也(池松壮亮)はその思いを知るため、母の友人、三好(三吉彩花)とともに生前のデータをかき集め、仮想上の母の制作を依頼。しかし、秋子は意外な事実を語り始め…。 「本物以上のお母さまを作れます」という開発業者・野崎(妻夫木聡)の言葉が印象的。AIや仮想現実に抱く違和感を巧みに取り込み、「本物」とは何かという認識を激しく揺さぶる。 8日から全国公開。2時間2分。(耕)