なぜラグビーW杯で日本はアイルランドから歴史的1勝を挙げることができたのか?
攻撃のキーワードも我慢だったろう。 スタジアムが揺れたのは3点を追う後半18分の逆転トライだった。左タッチライン際を駆けてフィニッシュしたウイングの福岡堅樹は、先発予定だったウイングのウィリアム・トゥポウの「左ハムストリングの故障」によって急遽リザーブ入りしていた。福岡が、インゴールを割るまでの間は、敵陣22メートルエリア右のスクラムからインサイドセンターの中村亮土、姫野、リザーブスタートだった右プロップのヴァル アサエリ愛がゲインラインへチャレンジし続けていた。 最後は敵陣ゴール前左中間の接点から、中村が球を呼び込む。受け取る。アウトサイドセンターのラファエレ ティモシーに素早くさばくと、そのラファエレも大外で待つ福岡へパス。丁寧に球を繋ぐプレーは、このチームが継続的に練習してきたスキルのひとつだ。この日唯一のトライに直後のゴールも成功しスコアは16―12となった。 トニー・ブラウンアタックコーチが多彩なゲームプランを作る日本代表は、この日、相手のボールキープ力を踏まえて自分たちが球を保持する時間を拡大させることを試みた。キックを蹴るのは相手の後衛がせりあがった時に限り、そうでないケースはハイテンポのフェーズを重ねる。トンプソンは言った。 「ボールを大事に扱う」 0―5と先制された直後の前半17分頃は、浅めに蹴ったキックオフでウイングのレメキ ロマノラヴァを競らせて攻撃権を得る。揃いきらぬ防御の切れ目へ勢いのあるランナーが駆け込む。 ラックサイドへ鋭角に突っ込んだ堀江をプロップの稲垣啓太が援護したところで、アイルランド代表がたまらず反則。田村のペナルティーゴールで3-5と迫った。 スイープと呼ばれる、接点で絡む相手をはがす動きは80分通して貫かれた。姫野はこうだ。 「本当にイメージ通り。相手が我慢しきれずペナルティ…と。はまったかなと思います。ブレイクダウン(接点)がキーになると、試合前から話していました」