【相撲編集部が選ぶ秋場所3日目の一番】まさに鉄人。玉鷲が歴代最多記録の1631回連続出場を白星で飾る
直近5回の対戦では4勝1敗という“照ノ富士キラー”でもある
玉鷲(押し出し)輝 鉄人が、ついに前人未到の領域に足を踏み入れた。 玉鷲が、この日の出場で通算1631回連続出場となり、これまで最多だった青葉城(元関脇)の記録を抜き去って歴代単独1位に躍り出た。 平成16(2004)年1月に初土俵を踏み、3月に序ノ口について以来、20年以上、休むことなくコツコツと土俵を務めてきたたまものだ(ちなみに、令和4年7月場所で、13日目に不戦敗、14日目、千秋楽に休場しているが、これは部屋に新型コロナウイルス感染者が出たためということで、連続出場記録は継続という判断がなされている)。 今場所は連敗でのスタートとなってしまった玉鷲だが、館内のファンが掲げるお祝いのメッセージに囲まれての土俵となった、この記念の日の一番では、会心の相撲で初日を出した。この日の相手は輝。同じ一門で、かつては付け人に付いてもらったこともある力士だ。最近、序盤戦の取組は番付に従ってほぼ機械的に組まれているので、この巡り合わせも天の配材といえた。 立ち合いは頭と頭での激突。まさに玉鷲らしい相撲となった。そして玉鷲は9歳下の相手に完全に押し勝つパワーを見せる。前に出ながら右、左の突き。最後は右をノド輪のようにして伸ばすと、回り込もうとした輝の右足が土俵を割った。 【相撲編集部が選ぶ秋場所3日目の一番】北勝富士が霧島にも土をつけ3大関総ナメ。優勝争いは一気に混戦に 「本当によかったです。(声援がすごくて)皆さんに見守られている感じでした。自分一人でできた記録ではなく、周りの支えがあっての記録だと思っています」と、玉鷲は記念の1勝を振り返った。 この、大男同士が激突するコンタクトスポーツの世界で20年以上も休むことなく土俵に上がり続けてきたということ自体がもはや想像を絶するすごさだが、玉鷲の場合、なおすごいのは、出続けただけでなく、そのキャリアの中に2度も幕内最高優勝が含まれていることだろう。しかも最近のものは37歳での優勝なのだから、まさに鉄人だ。最近は幕内下位の番付が多いため、しばらく顔が合っていないが、直近5回の対戦では4勝1敗という“照ノ富士キラー”でもある。 常々口にするのは、「お客さんに、“見に来てよかった”と思ってもらえる、玉鷲らしい相撲を取る」ということだ。土俵を離れれば料理や手芸を得意とし、“鉄人”のイメージとは打って変わって器用なところがある玉鷲だが、土俵の上では器用な駆け引きによる白星を目指すことはない。正面から力勝負を挑み、相手を上回れば勝ち、上回れなければ負ける。そういう相撲で番付を維持するためには、基礎体力やパワーを衰えさせるわけにはいかないので、自然に鍛錬にも熱が入ることになる。その気持ちの潔さが、まずは鉄人のバックボーンとなっているに違いない。 その上に、こちらは器用さとつながってくるのかもしれないが、人数の少ない部屋にあって、これまでの常識にとらわれない、2人を同時に相手にしての稽古や、ポリタンクを使ったものなど工夫を凝らしたトレーニングを取り入れるという頭の柔らかさが加わって、この偉業が達成されたといえる。基本的には突き押し一本だが、ときに右を差しての掬い投げなどを、それこそ器用に見せるのは、この創意工夫の稽古の成果でもある。 11月には40歳の大台に乗るが、「何歳までやりますか?」の問いには「決まってないですね」と答え、「また上に上がって戦いたい。自分らしい、荒々しい相撲を取り続けていきたい」と目標を口にする。 「あしたからは、記者さんも来なくなるでしょうから、普通の日が戻ってくると思います」と笑わせるが、あすからはもう、土俵に上がる度に新記録だ。誰も見たことのない景色を楽しみながら、納得するまで前人未到の地を進んでいってもらいたい。 文=藤本泰祐
相撲編集部