「いま辞めたら何者でもない…」解散危機を乗り越えたガクテンソクが掴んだ優勝
◇解散危機を救った『THE MANZAI』 ――お二人は解散危機もあったとのことですが、改めてここまでの道のりを教えていただけますでしょうか。 奥田:2010年に第一期のM-1が終わったのと、僕らがモチベーションにしていたbaseよしもとが同時に終わって、一度、解散危機を迎えました。でも、そこで「いま辞めたら何者でもないから、漫才がんばろうか」となって、そしたら2011年に『THE MANZAI』※で決勝に出ることができたんで、“僕らって頑張ったらなんとかなんねんな”って。 ※2011年から2014年まで開催されていた、フジテレビで放送されていた漫才賞レース ――再びモチベーションができた。 奥田:ですね。でも、THE MANZAIってお祭りの要素が強い大会だったので、僕らみたいなタイプのネタって評価されるのが難しくて。「M-1やったら評価されたのにな」とか、よく言われてたんですよ。 よじょう:そしたら、2015年にM-1がまた始まったんです。 奥田:たぶん、僕らも優勝候補だったと思うんですよ。密着のカメラも多かったし。でも、2015年は準決勝で落ちて、2016年も準決勝で落ちて、2017年は準々決勝で落ちて。そのくらいのときに、僕は“自分のアイデアが枯れた”と思って、よじょうと、あと一緒にやっていた作家さん2人に「アイデアの種がすべて刈り取られてしまったので、新ネタ作りを休ませてくれ」と伝えたんです。 「漫才への熱が消えたわけじゃないけど、インプットの期間をくれ」と。その期間は、よじょうと作家さんに新ネタ作りをお願いしてました。 ――かなりの危機ですよね。そう伝えられたとき、よじょうさんはどう思ったんですか。 よじょう:もう、やるしかなかったです。作家さんと一緒に考えてましたよ。でも、わりと僕もネタ作りに参加するタイプなんで、そのときも僕と作家さんが書いたネタを、二人で直しながらやっていってたんで、周りからは変わったようには見えてないんじゃないですかね。 奥田:僕は“書けない”と言ってるくせに、書いてもらったネタに「なんやねん、これ!」「ここはこうやろ!」とか言って、めっちゃ直してましたから(笑)。 ◇刺激になったミルクボーイの優勝 ――奥田さんのインプット期間はどのくらい続いたんですか? 奥田:1年くらいですね。今も寄席とかでやる漫才で、クリケットのルールを説明するだけ、みたいなネタがあるんですけど、あれを初めに作ったんです。それをM-1の3回戦でやったらめちゃくちゃウケて、“こういうのもありなんや!”と手応えをつかめました。ただ、そのネタが4分だとハマらなかったので、準々決勝は違うネタをやったら落ちちゃったんですけど。 ――でも、いい刺激になったんですね。 奥田:はい。あと、そのくらいから徐々に寄席の10分、15分の漫才出番が増えていたんです。そういう長尺の漫才って、スロースタートで、徐々にワーと上がっていくネタの構成なんですよ。例えば、同じ陸上競技でも短距離走の選手はムキムキだけど、マラソン選手はガリガリじゃないですか。僕らもちょっと痩せつつあったんですよ、使ってる筋肉が違うから。 ――M-1とは違う漫才になってきていたんですね。 奥田:“これからも普通に飯を食っていくんやったら、そっちだよな”みたいには思っていて。だから2019年は、まだあと1年出られたんですけど「もう今年でM-1に出るのは終わりでいいかな」と言ってたんです。でも、その年に完全な同期であるミルクボーイが優勝したんです。 よじょう:圧勝やったよな。 奥田:これで出えへんとか言ったら、来年めっちゃ周りの人に言われんねやろうな、みたいな。“やらなしゃあないか……”みたいな感じになって。そう思った矢先に2020年はコロナ禍になって、M-1の開催も危うかったんですけど、「旅行」をテーマにしたネタを1本だけ、M-1に向けて作ったんです。 ――旅行のネタ、大好きでした。だからこそ、敗者復活でやらなかったのが“なんでだろう?”と思ってしまいました。 奥田:ありがとうございます。このネタはギャンブル性を極力減らして、絶対ウケるだろうっていう形にしたんです。最後に15年の経験を出せたんで、準決勝で負けた時点で、自分の中では悔いはなかったんで、敗者復活は別のネタで挑もうと思って。いま思い返すと、準決勝で死ぬほど緊張してたのが恥ずかしいぐらいでね。 ――そのお話が聞けてうれしいです、ということは、M-1の出場資格がなくなってからも、漫才に対してのモチベーションはあったんですね。 奥田:そうですね。M-1を目指して芸人を始めたわりには、“さあ、今からM-1と関係ない漫才作っていきますか!”っていう感じに、すぐ切り替えられましたね。 ――SECONDの優勝会見で「(NGKのトリを取る人を)銀シャリさんだけにしたくない」との発言もありました。 奥田:もちろん、劇場に立ち続けたいというのはあるんですけど、あの言葉はそれ以上の意味はないんです。ただ、劇場のトリを取るのって、僕は“ちゃんとお客さんを呼べる人”だと思ってるんです。僕の中で“この人が出るなら、見に行こうと思ってもらえる人”がトリだと。 そこで言うと、僕らはこれまで吉本の扶養家族だったんで、売れてる皆さまが劇場に立つから、ライブに出られている。これまでの僕らは、ライブを成立はさせてるけど、お金はそこまで生んでないんですよ。 でも、この年になったら、さすがに実家に仕送りせんとじゃないですか。テレビにも出て、知ってもらって、“ガクテンソクを見られるんやったら劇場に行ってみよう”ってなる存在にならないと。 よじょう:そうですね、そこは僕も一緒の考えです。知名度がないと、本当の意味でトリにはなれない。