日本企業が海外で成功するために--刺さるメッセージの違いを知る
前回は、海外マーケティングをする上で重要な戦略である現地でのローカライズについて述べた。またターゲットとするエリア別のマーケティング戦略の違い、市場リサーチの方法についても解説した。 欧米の事例 今回は、日本と海外の市場を比較した具体的なマーケティング方法について解説していく。効果的なメッセージ訴求方法や広告の特徴、PRやSNSの活用、レピュテーションマネジメントやイベントマーケティングなどの手法について紹介し、北米と日本を拠点にグローバル企業の日米市場双方の越境マーケティングを支援している筆者の視点で日本企業がどのように海外で戦って行くべきなのかを考察する。著者が北米のマーケティングPR支援であることから米国に偏った内容になることはご了承いただきたい。 初期段階での徹底した市場リサーチ まずは、マーケティングを行う上で不可欠なリサーチの方法について触れておく。戦略を練る上でも、ターゲットとする国や地域のデモグラフィックや産業の特性・協業などは入念に調べておきたい。 初期段階には、インターネットで情報収集することで、市場をマクロ的視点で捉えることができる。実際、JETRO(ジェトロ)のホームページには、市場レポートや分析レポート、法律関係、各国の地域事務所の職員によるビジネス短信など豊富な情報を得ることができる。 次に、人脈による調査も欠かせない。インターネットを活用すれば、日本にいながらも海外進出リサーチは可能と思っている人も多いが、実際はそうはいかない。現地でのパートナー企業候補を探す過程では、ネットには載っていない情報も得られる。実際に現地に行って競合他社のプロダクトを使ってみたり、評判を聞いてみたりするとターゲットとする市場の感触や顧客のペイン(課題)も見えてくる。 また、テストマーケティングで小額を投じて「Google Ads」や「Facebook Ads」などのネット広告を試す、小規模なインフルエンサーやKOLにアプローチしてローンチ前のテストをするといったマーケティング活動も今後の本格参入では重要なデータとなる。 日本である程度ビジネスが軌道に乗っている会社では、創業時に行ったような地道な調査やテストマーケティングを行わず、いきなり大きくマーケティング展開をしていきたいという会社も多い。しかし、国や地域が異なれば、これまでの国内市場での成功体験は役に立たず、イチから構築していくことになるということを忘れないでほしい。 刺さるメッセージは違う マーケティングにおいて、なにをどう伝えるかは重要である。つまり、コンセプトと切り口である。マーケティングの話題ではストーリーテリングやパーソナライズなど米国で誕生した手法や訴求方法が、日本には遅れてやってくる。米国考え方は納得できるものの日本市場に適応しようとすると少し改善が必要なものが多い。例えば、米国で使われるようなダイレクトメールを送っても日本の会社では迷惑メールボタンを押されておしまいだ。 米国のDMの例:Hey Yusuke,Curious if you are adding clients from LinkedIn?日本語訳:リンクトインでクライアントを獲得してますか? 手法の話は後ほど解説するが、まずはどのようなメッセージ訴求をすべきか日本と海外を比較していきたいと思う。 スペック vs ベネフィット 「日本の広告は説明が多い」とよく言われる。広告だけでなく、ホームページやチラシ、製品パッケージに至るまで、本当に細かくさまざまなことが書いてある。以前、カナダの食品業界団体向けに日本市場のマーケティングに関するセミナーで登壇したことがあり、お茶のパッケージの違いについて紹介した。 欧米のリプトンのパッケージには「Green Tea Signature Blend」としか書いていないのに対して、伊藤園のパッケージには「宇治抹茶入り」「国産茶葉100%」「三角ナイロンバッグでよく出るおいしい」そしてダメ押しで「濃く出る茶カテキン」ととにかくスペック推しが重要だという話をしたところ、全く理解されなかった。 一方で、欧米ではベネフィットの訴求が非常に重要である。つまり消費者にどのような価値や利便性を提供するかが重視される。スペックを詳細に説明しても、それが消費者の問題をどのように解決するのかが明確でなければ、興味を引くことは難しい。特にIT系のサービスは説明をしないといけない商品であり、ベネフィット訴求は重要である。 ハイコンテクスト vs ローコンテクスト 日本語はハイコンテクストな言語である。暗黙の了解や共通の文化背景に依存するメッセージやコピーが多い。例えば、JR東海の有名なコピーである「そうだ 京都、行こう。」は、日本人からすると非常に洗練されおり、思い立ったその日に京都に行ける気軽さと早さを新幹線が提供することを連想できる。 しかし、京都がどれほどの距離にあるのかを知らず、もともと京都へ旅行するつもりだった外国人旅行客には刺さらないだろう。 欧米のようなローコンテクスト(文脈に頼らない、シンプルで明快なコミュニケーション)文化向けに発信するのであれば、「Kyoto in a Flash: Hop on the Bullet Train for an Unforgettable Journey 訳:あっという間の京都:新幹線で忘れられない旅へ」や「Speed to Serenity: Your Kyoto Getaway Starts with the Bullet Train 訳:スピードから静寂へ: 新幹線から始まる京都の旅」というような、ストレートで誰が見てもベネフィットがわかりやすいものになるだろう。 ローコンテクスト文化圏である北米や欧州圏では、曖昧で受け手によって解釈が異なるようなメッセージは避けたい。特に自分が常識と思っていることを前提にマーケティングを行うと上手くいかない。例えば、「すぐにできます」という表現は「すぐ」の概念が人それぞれなので、「1秒で」「1時間で」のように具体的な数字で示した方がよい。 神村優介 シェイプウィン株式会社 代表取締役 ShapeWin Canada Ltd. CEO 山口県光市出身。徳山高専情報電子工学科卒業後、株式会社セガトイズに入社。お風呂で使える家庭用プラネタリウム「ホームスター アクア」で年間15万台出荷するヒット商品をプロデュース。 2011年に日本と北米に拠点を置くPR&デジタルマーケティング会社シェイプウィン株式会社を創業。2021年からカナダ・バンクーバーを拠点に置き、日本や韓国のスタートアップを中心に北米市場でのマーケティングを支援。同様に世界14カ国200社以上のグローバル企業の日本市場でのマーケティングも支援している。