“時代の寵児”M&A総研HDが直面、中小企業を食い物にする悪徳業者対策(真保紀一郎)
【企業深層研究】 M&A総研HD(上) ◇ ◇ ◇ 1年前は最年少(32歳)ビリオネア(資産10億ドル以上)として脚光を浴びながら、今は中小企業を食い物にした悪徳業者に“手を貸した”として責任を問われているのが、M&A総研ホールディングスの佐上峻作社長だ。9月19日、M&A仲介協会という一般社団法人が会見を開き、来年1月1日をもってM&A支援機関協会に名称変更すると発表した。 ロピア(上)カトパンの夫が社長就任後に急成長 イトーヨーカ堂の7店舗を手に入れる 翌日、日本経済新聞などが小さく報じていたが、一般の人にはほとんど関係のない名称変更だ。しかしこの名称変更の真の狙いは、最近、頻発しているM&A絡みの悪徳業者対策にある。 今、日本では中小企業のM&Aが急増している。老舗のM&A仲介会社、レコフのデータによれば、1985年に年間260件だった成約件数は2019年には4000件を超えた。そして今年は過去最高ペースで推移しており、このままいけば4500件超えが見えている。 日本には中小企業が380万社あるが、その3分の1で後継者がいない。中小企業経営者の平均年齢は60代。 あと10年もすれば、多くの中小企業が後継者がいないため廃業に追い込まれる。 それを救う手段の一つがM&Aだ。新たに資金と人材を入れることによって成長への道が開けるケースも多く、しかも中小企業経営者は、企業を売ったお金で老後を心配なく暮らすことができる。M&A件数が増えているのはそのためで、仲人役である仲介業者の業績も好調だ。 その一方で、M&Aの負の側面も目立ってきた。 中小企業経営者の多くが金融機関の融資に対して個人保証を行っている。M&Aで会社を売る時には、個人保証を外すことが一般的だ。ところが一部の悪徳買い手企業は、保証を外す確約をしていながら、買収後、意図的にその手続きを取らず、借金も払わない。すると個人保証をしている元経営者は、会社を手放した上に借金の支払いを迫られることになる。 このように、中小企業を食い物にするM&A案件を多く仲介していたのがM&A総研だった。そのため、「悪徳企業と知っていながら仲介しているのではないか」と疑われている。 しかも佐上氏は、冒頭で触れたM&A仲介協会で理事を務めている。同協会はM&A市場の健全な発展のために3年前に上場仲介会社が中心になって設立されたもの。その理事の会社が、むしろ市場を混乱させていたら大問題だ。 佐上氏は理事の中でもっとも若い33歳。M&A総研の誕生もわずか6年前にすぎない。そこから急成長を遂げ、22年には上場を果たす。株価も高く、時価総額は、M&Aセンターホールディングスに次いで業界2位。社長の佐上氏は、過半の株を保有しているため、昨年秋に雑誌「Forbes」が発表した日本人長者番付では資産1750億円で41位となり、最年少でランクインした、いわば時代の寵児だった。 なぜ、佐上氏及びM&A総研はこれほどまでの急成長を遂げることができたのか。そしてこの急成長こそが、悪徳企業をはびこらせる温床になったのではないか。 後編では、これまでの佐上氏の足跡と、経営手法を明らかにする。=つづく (真保紀一郎/経済ジャーナリスト)