15周年イヤーを迎えたさかいゆう、曲制作の根本や進化し続ける音楽観について訊いた
「死への向き合い方を大事にしている」曲制作の根本
──それにしても、黒盤(CD-2)のラストに収録された新録の3曲はメンバーが豪華ですね。ギターがロベン・フォード、ベースがモノネオン、ドラムにネイト・スミス、挟間美帆がアレンジを手がけている大所帯のホーン・アンサンブルにも現代ジャズ・シーンで注目を集めている実力派プレイヤーの名前がちらほらと確認できて、思わず「おおっ!」と声が出るほどでした。 でしょう? ──『Freedom Freeway』は新曲で、『よさこい鳴子踊り』『君と僕の挽歌(New York Ver.)』の2曲はリメイクですが、新録曲はどういうものにしたいと考えていましたか? まず『よさこい~』は日本語を喋れない米国のゴスペル・シンガーの人達の「よっちょれよ」を聴いてみたいというのと、わざわざマンハッタンまでいって「よさこい」を録る意味も結構あるかなと思ったので(笑)。 ──3曲とも向こうのゴスぺル・シンガーたちが日本語詞でコーラス・パートを歌っているのも印象的でした。 『君と僕の挽歌』を録り直したのは、ゴスペル・ヴァージョンを作りたかったというのと、この曲はミュージシャンになりたかったけど亡くなった友だちに向けて書いた曲で、「自分はミュージシャンになったんだけど、お前にはどういう風に見えてる?」と問いかけるように2012年の時点で書いたものなんですけど。そこからさらに11年が経って、「今はどういう風に見えてる?」って気持ちで録音しました。そこに意味があるのかな、と思って。 ──『君と僕の挽歌』のオリジナル・ヴァージョンは白盤(CD-1)のラストに収録されていて、その対比が今回のベスト盤の大きな聴きどころにもなっています。 両方とも別モノとして入れたくて。テンポは一緒なんですけど、どちらも最後にこの曲があるところはコンセプチュアルにしました。 ──『君と僕の挽歌』は、さらに歳を重ねて歌ったときにまた違う響きを帯びそうな曲ですね。 コーラスの人たちにも歌詞の意味を伝えて、日本語で歌ってもらいました。ま、自分の大事な知人を亡くすという感覚は、宗教などを越えて同じようなことだと思うし、うれしい人は誰もいないはずですから。 「寂しい」を「悲しい」と捉える人もいますけど、昔のネイティヴ・アメリカンや日本人たちは「悲しい」という感覚ではなかったんじゃないかなとも僕は思っていて。ひとつの死を受け入れて、彼ら(故人)の考えていたこととか植えた木を守るとかで繋がっていくというか。 ──なるほど。 とにかく、死への向き合い方という点でもこの曲はとても大事なものだったりするし、それが一番僕にとっては音楽をする大事なモチベーションだったりもしますね。恋愛の曲だろうが何だろうが、死をちゃんと匂わせるというか。 別れイコール死だと思うし、それを「悲しいこと」という理由付けにしたくないので、『君と僕の挽歌』の歌い出しでも「寂しさは続くだろう」で「悲しさは続くだろう」とは言ってないんですよね。そして「でも、あなたが残した記憶はちゃんと僕に受け継がれていて」という宣言でもある歌だから、何回でも歌い直す意義や意味があるものになっているのかなと。 ──実は、僕自身もこのベスト・アルバムを聴いていて強く思ったのは、たとえばラブソングの体裁を取っていてもそれだけじゃないことが歌い込まれているように感じる楽曲が多いことで。だからこそ、聴き手の深いところまで刺さってくるような感覚があるのかなと。 普段はそんなこと思わないんですけど、曲を書いているときに「あ、オレいつか死ぬんだろうなぁ。死んだらコレ(曲)しか残んないなぁ・・・」と思いながら書いているときが結構ありますね。 で、誰かが僕が死んだ後にそれを聴いて喜んでいたとしても、オレは今それを聴いて喜んでいる人を見て喜んでいるのと同じ感覚でいられるかの保証はないな・・・とかブツブツ考えながら曲を書いていると、それが1曲になるんですよね。でも、全然暗い気分とかじゃなくて、めちゃくちゃ明るい気分で。 ──シリアスで重い感じになりそうなところでも、そうはならないというか。 暗く重くはならないですね。(死について考えているのに)「明るく」と言ったら不謹慎かもしれないですけど、深く、広く、強くという感情になりますね。曲を書いたりするときには。 ──そんな15年の歩みで培ってきたさかいさんのエッセンスが詰まったベスト・アルバムのリリースを経て、3月14日からは全国4カ所を回るホール・ツアー『さかいゆうTour 2024~プレイリスト[白と黒]』が開催されます。 昔からよく知っている、僕の大好きなベスト・メンバーと呼べるミュージシャンたちに集まって演奏してもらうので。張り切ってちょっと長いライブになるかもしれないですけど、黒から白からちょうどいい感じに織り交ぜてお届けしたいと思います。 ◇ 『さかいゆうTour 2024~プレイリスト[白と黒]』の大阪公演は3月24日・夕方6時から、「国際交流センター」(大阪市天王寺区)にて。チケットは全席指定6600円(小学生以上有料)。