ダルビッシュ有が変化球をコーチから酷評された日…プロのまねをしていた少年が37歳で日米通算200勝を達成するまで「理想の投球はない」
キンブレルのナックルカーブを数時間で習得
個人差があるとはいえ、通常、変化球の習得には一定の期間を要する。だが、ダルビッシュの場合、感覚がピタリとはまれば、すぐに実戦で使えるケースも少なくない。メジャー移籍後、ドジャース時代の同僚でもある前田健太のチェンジアップを参考にした際には、安定したレベルに届くまでには時間が必要だった。その一方で、カブス時代にはクローザーのクレイグ・キンブレル(現オリオールズ)から登板直前の練習で助言を受けたナックルカーブを、すぐに実戦で投じるなど、人並み外れた適応力で、幾多の変化球を習得してきた。
1シーズンごとに変化球をアップデート
昨年3月のWBCの際、侍ジャパンの宮崎合宿に参加した時には、日本では珍しいとされた真横へ滑るスイーパーを披露し、若い日本投手陣から注目を集めた。その一方で、今季の春季キャンプでは、自らの発想で時速140キロ前後の「速いスライダー」を磨き、時速145キロ前後の高速カットボールとの差別化にトライするなど、変化球の細分化をさらに進めた。 力だけでねじ伏せるのではなく、相手打者に対して、いかに満足なスイングをさせないか。 「米国ではデータがその年によって変わっていく。その年のトレンドがあったら、オフには野手がどうやったら長打を打てるか練習してくる。そしたら次の年、また変わる。そこに対応して球速を上げたり下げたり。毎年変わって来るから」
指揮官は「準備もファンタスティック」
同じ球種を、同じ軌道、球速で投げ続けても、同じ結果は生まれない。 ダルビッシュの変化球へのこだわりは、すべては1つのアウトを取るため、そしてチームが勝つためだった。 だからといって、現時点で理想とする投球スタイルが確立したわけではなく、過去の実績に固執することもない。試合前には、対戦相手の映像、データを何度となく見返し、配球をイメージする作業は変わらない。自ら戦略を立てるだけでなく、コーチ陣の意見に耳を傾け、万全を期してマウンドへ向かうルーティンは、間違いなくメジャー最高水準と言われる。今季から指揮を執るマイク・シルト監督にしても、「彼はすばらしいゲームプランを持ち、準備もファンタスティックだ」と全幅の信頼を隠そうとしない。
変幻自在の投球哲学
大記録に到達した一方で、昨季開幕前に更新した契約は、42歳となる2028年まで残り4年半あまり。今後、ダルビッシュはどんな投球を続けていくのか。 「相手によりますね。相手がどういうチームでどういう打者なのか。打者によって得点圏だったり、走者一塁で変わる。自分はこれだけ球種があるので、その都度アジャストしていくのが自分の投球。こう、という(理想)のはないですね」 偉業達成直後でも、ダルビッシュはサラリと言った。 200勝は、あくまでも通過点―ー。 周囲が使うフレーズが空虚に聞こえるほど、ダルビッシュは積み上げた数字ではなく、いつも通り、次の試合を見据えていた。
(「メジャーリーグPRESS」四竈衛 = 文)
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