アルピナD3ビターボはどんなセダン&クーペだったのか? これぞ最高の3シリーズ! 4気筒ディーゼルは5リッター級ガソリンV8ユニットに匹敵するトルクを発揮する感動エンジン!!
M3の4リッターV8ユニットをはるかに凌ぐ強烈なトルク!
中古車バイヤーズガイドとしても役にたつ『エンジン』蔵出しシリーズ。今回は2009年9月号に掲載されたアルピナD3ビターボの記事の取り上げる。BMWの乗用車用ディーゼルは世界最良と言われていた当時、総輸入元であるニコル・オートモビルズが入れたアルピナD3は、それにさらに磨きをかけたものだった。デモカー試乗してみると、驚愕もののできばえなのだった。 【写真5枚】絶品の4気筒ディーゼル・ツインターボ・エンジンを搭載するアルピナD3クーペ・ビターボの詳細画像はこちら ◆速い!疾風のように速い。 中間ギアの追い越し加速の伸びの良さは、とても2リッターエンジンのクルマのものとは思えない。上のギアを使ってフル加速を試みることなんて、アウトバーンのないこの国では無理。まるで大排気量スーパースポーツのような加速だ。全開でリミットまで引っ張ることができるのは2速だけ。公道では3速ですらはばかられる。 速度の伸びは麗しいほどにリニア。高い過給圧を加えるターボ・エンジンへ危惧する2次曲線を描く稚拙な加速とは無縁だ。右足の踏み込み方のほんの僅かな変化にピタリと追従してみせる。きわめて高純度の速度支配力を見せつける。素晴らしい。 いま走らせているのはニコル・オートモビルズが今年、輸入しようとしているアルピナのベストセラー・モデル、D3だ。正確にはD3クーペ・ビターボだ。変速機は6段マニュアル。トルク・コンバーターが七癖を隠すATと違って、マニュアル・ギアボックスはエンジンの素性を白日の下に晒す。D3にはアルピナお得意のスイッチトロニックがあるのに、デモカーにわざわざMT仕様をもってきたのは、よほど自信があるからなのだろう。このクルマは、それだけのことがあると、これ以上ないほど雄弁に物語っている。欲しい。 ◆最先端のスーパーディーゼル 少し内容を説明しておこう。アルピナD3の基本構成は、3シリーズに2リッター直列4気筒の直噴ディーゼル・ターボを載せ、6段MTもしくは6段スイッチトロニックを組み合わせたものだ。ボディはセダン、クーペ、ツーリングから選べる。すでにドイツ本国市場についで高い人気を博している英国市場でも販売しているから、もちろん、右ハンドル仕様も選べる。つまり、順列組み合わせは3×2×2で12通りあるわけだ。 エンジンはBMW123dに使われる、大小2基のターボチャージャーをシーケンシャル作動させるツインターボ仕様がベースで、そこにアルピナの洗練されたチューニングが加えられて123dでは204psの最高出力が214psまで引き上げられている。比出力は107ps。市販車用ディーゼルとしては未曾有のハイチューン・ユニットとなる。20年前ならそれこそ夢にも描けなかった、驚天動地のハイパワーである。2リッターディーゼルの平均的な最高出力は70ps程度にすぎなかったのだから、じつに3倍!である。 出力以上に驚異的なのがトルクだ。D3のユニットは45.9kgmもの巨大な力を2000から2500rpmの範囲でひねり出す。M3の4リッターV8ユニットですら40.8kgmでしかないことを思い出してほしい。D3のユニットは並の5リッター級ガソリンV8ユニットに匹敵するトルクを、それより低い回転域で生み出すのである。 当然、変速機にはそれ相応に受容トルクの大きいヘビー・デューティな仕様を使うことになる。けれども、D3の6MTは武骨な感触を微塵も残さない。アルピナ(BMW)一流の軽やかな操作フィールを保っている。 あぁ、それにしても素晴らしい。内燃機関の感触そのものに、からだの奥底から湧き上がってくる喜びを感じることなどそうそうあるものではないけれど、D3ビターボの4気筒ツインターボ・エンジンはその数少ない名機のひとつだ。タイプこそ違っても、コルベットZ06のV8や911GT3のボクサー6、599のV12のエンジンと同じぐらい大きな感動をもたらしてくれるエンジンだ。 ディーゼルということでトップエンドでのふん詰まり感や、音、振動を危惧するひとがいるかもしれない。でも、一度、これを実体験したら、そんなものは昔話にすぎないということを即座に理解するはずだ。 アルピナは4気筒2リッターディーゼルではせいぜい4500rpm辺りが上限のレヴリミットを5200rpmまで引き上げることに成功しているし、電子制御ガバナーの介入の仕方も綺麗な減衰感に結びついている。 振動にしたって、ベース・ユニットにもともとバランサー・シャフトが組み込まれているから、この高回転型ディーゼルにして2次振動の嫌がらせも出ない。音も問題なし。 唯一アイドリングでこそディーゼルだとわかるものの、だからといってキンキンカンカンゴロゴロとしたものではない、ごくごく控えめな音量でギリギリと鳴るソフトな音質だ。最新の多段階噴射技術の成せる技である。因みに、高出力実現のために大容量型とせざるをえないインジェクターは、緻密な噴射(燃焼)制御を難しくするが、D3には高価なピエゾ式を使い、ネガを抑え込んでいる。 エンジンがあまりに感動的なもので、ついその話ばかりになってしまった。しかし、アルピナの真骨頂はその心臓にもまして、麗しい脚さばきにある。D3もその例外ではない。 ひたひたとよく動き、しなやかに路面をとらえ続ける。これも感動的。 D3は、最良最高の3シリーズだ。 文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦 (ENGINE2009年4月号)
ENGINE編集部
【関連記事】
- GT-R開発にも負けていない、これぞクルマ屋の仕事! 日産マーチ12SRは、どんなホットハッチだったのか?
- アバルト・グランデ・プントのスーパースポーツ版、エッセエッセはどんなホットハッチだったのか? やっぱり痛快なのがイチバンだ!!
- 世界限定500台(日本はわずか67台)のアルファ・ロメオ8Cコンペティツィオーネはどんなスポーツカーだったのか? 2度とこんなクルマは生まれない!
- 「こいつは思わず乗り逃げしたくなる!」 クワトロポルテのスポーツGT Sは、どんなマセラティだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ/マセラティ篇】
- 電動化前のロータスは最高だった! 260馬力で910kgの超軽量マシン、エキシージ・カップ260は、どんなロータスだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ/ロータス篇】