認証保育所希望者には太っ腹助成―千代田区が示す待機児童解消、新たな選択肢
待機児童は“ハコ”整備だけでは解消しない
今般、東京圏の自治体は、慢性的な待機児童問題を抱えています。待機児童問題が簡単に解決しない理由は、単に保育所を整備すれば解決ではないからです。現状、保育所が不足しているのは確かですが、待機児童の解消策は保育所という“ハコ”をつくるだけではありません。勤務する保育士も集めなければならないのです。 新しい保育所は、計画からでも2~3年で何とかつくることが可能です。しかし、保育士を育成するにはもっと長い歳月を要します。保育士は圧倒的に不足しており、待機児童問題は人を育てることが重要になっているのです。 「保育所の開設に不可欠な保育士を集めるため、千代田区は保育士を正規雇用する事業者に月3万円の処遇改善の補助金を出しています。また、千代田区に在住する保育士には月13万円の家賃補助をしています」(同)。 保育士への家賃補助をしている区はほかにもありますが、東京23区では月8万2000円が一般的です。「また、来年度からは区内の保育所に勤務する保育士に対して、年間最大で24万円の奨学金返済支援も始めます」(同)。
区の苦肉の策、都独自の認証保育所に着目
待遇を手厚くして保育士確保に取り組む一方で、千代田区は利用者の負担軽減にも力を入れています。近頃は“保活”と呼ばれる、認可保育園に入園するための活動が激化しています。多くの人が認可保育園を希望するのは、なによりも保育料が理由です。 認可保育園の入園料は「世帯年収、「子供の年齢」、「第1子・第2子・第3子といった家庭内の子供の数」、「預ける時間」などで上下します。(※[別表]千代田区の認証保育所単願入園補助保育料表参照) 第1子を認可保育園に預けた場合、0~2歳児の保育料は最大でも月額5万7500円(延長保育料別)です。無認可保育所の保育料は、月10万円以上も珍しくありません。高すぎる保育料は利用者に重い負担となるので、最近は自治体が補助金を出して利用者の負担軽減を図っています。それでも、認可外は保育料が高いというのが、一般的な認識になっています。 保育料がネックになり、入園希望が認可保育園に集中する現象は、あちこちの自治体で見られます。認可保育園に入園希望が集中した結果、どこの認可保育園も定員オーバーが起き、待機児童が発生してしまうのです。 認可保育園を補うべく、国の基準を満たした認可保育園とは別に、都は独自の基準で認証保育所を開設しています。 「認証保育所は認可外と比較した場合、保育料は安いのですが、認可と比べた場合は保育料が割高というのが一般的です。そのため、認証保育所も認可外同様に忌避される傾向にありました。千代田区は待機児童を減らすために、認可に集中してしまいがちな入園希望者を認証に振り分けようという考えに基づき、認証保育所への補助を厚くしています。そうした背景から、認可よりも認証の方が保育料は安くなっています」(同)。 認証保育所への支援を手厚くしている千代田区でも、いまだ認可への入園希望が集中している状況です。認可と認証では、保育の質に歴然とした差はありません。むしろ、認証保育所は「開所時間を13時間以上にしなければならない」と定めているため、働くパパ・ママにとってメリットもあります。 「それでも、認可の方がイメージがよいため、認可を選ぶ親が圧倒的に多いのが現状です。認可に希望が集中して待機児童が出ることを防ぐため、区は来年度から認可に申し込まず、認証保育所だけに入園希望を出す単願申込者への保育料補助をさらに手厚くする方針にしました」(同)。 認証単願で申し込んだ場合、0~2歳児の保育料は最大でも2万8750円です。保育料は認可の半額です。かなり太っ腹な保育料補助ですが、千代田区がそこまで子育て支援を手厚くする理由はなぜでしょうか? 「区にとって、人口が増加することは歓迎すべき話です。一方、人口が増加すると保育所などの整備が求められます。本来なら、保育所を新規に開設することが理想です。都心の千代田区はオフィスビルが立ち並び、保育所を開設できるスペース的な余裕がありません。また、仮に保育所用地があっても不動産価格は高く、とても手が出ません。そうした千代田区ならでは事情もあって、空きのある保育所に入園希望者を振り分けて、既存の保育所をフル活用する方針にしています。補助金を手厚くしても、結果的に安上がりになるのです」(同)。 認証保育所への補助を手厚くすることは、区が編み出した苦肉の策でもあります。これまで行政が待機児童問題を解決するために取れる選択肢は、保育所を新設するか定員増しかありませんでした。 認証保育所単願申し込み者に手厚い補助をすることで、認可保育園への集中を緩和させようという千代田区の政策は、待機児童問題の解決手段に新しい選択肢を加えたことになります。 小川裕夫=フリーランスライター