「キャッシュレス決済手数料が店を圧迫? “現金主義”の価値を今一度考える」稲垣えみ子
元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。 【写真】いつものカフェでの現金払いにドキドキ * * * 先週のアエラで、最も衝撃を受けたのが武田砂鉄さんのコラムである。熊本の歴史ある書店が市民に惜しまれつつ休業する理由の一つが「キャッシュレス決済の手数料」だったという。 もともと利益の薄い商売の中で、客が現金を使わなくなったことで、その貴重な利益がさらに削り取られることになったのだ。なぜって電子マネー等の会社に手数料を払わねばならないから。キャッシュレスで払う人の割合が増えるほど、店の儲けは減ってしまうのである。 キャッシュレス導入で本を買う人が増えたなら影響は相殺されるんだろうが、本とは支払いの便利さに釣られ「つい」「たくさん」買ってしまうようなものではないので、そうはならなかったのだろう。 で、何が衝撃を受けたって、電子マネーの普及は一体誰のためなのかってことを、危うく忘れかけていた自分に対して、である。
当コラムでは何度か、現金で払うことが迷惑とでも言わんばかりの世の風潮に疑義を表明してきた。だが正直言うと、私も最近ではカフェの支払いなどでクレジットカードを使うことが増えていた。一瞬で支払いが終わるタッチ決済に慣れてしまうと、あたふた現金を数えている時間が店の負担になっているのかもと忖度するようになった。さらに最近は「現金お断り」店すら見かけるようになり、ますます(現金ってそんなに迷惑なのか)と後ろめたい気持ちを抱くようになった。 でもですね、んなふうに決めつけることはなかったんである! お金を払うことは、自分の生活を豊かにしてくれる店への敬意と応援だ。そこに「どこぞの他人」に横入りをさせないことも、店を守ることに繋がるはずなのだ。 良い店とは、感じの良い古い居酒屋のように、店と客が時間をかけてキャッチボールしながら作り上げていくものだ。そこに「便利だから」「売り上げが伸びるから」「これがないと生き残れないから」と誰かが入ってくる。結果、何が起きるのか。もう一度ちゃんと考えねばならぬ。 いながき・えみこ◆1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。著書に『アフロ記者』『一人飲みで生きていく』『老後とピアノ』など。最新刊は『家事か地獄か』(マガジンハウス)。 ※AERA 2024年6月24日号
稲垣えみ子