【続報・深圳日本人児童刺殺事件】声を上げる中国人は「排除」する中国社会の根深い「隠蔽癖」
中国の著名人も声を上げる
中国の著名人の中にも、声を上げる人が出てきている。その中で一人だけ、胡偉博士の文章を紹介する。国務院(中央政府政府)参事室公共政策研究センター副理事長、上海交通大学国際公共事務学院長などの要職を務めていたが、2022年にすべての役職を解かれて話題を呼んだ人物だ。 それは、ロシアのウクライナ侵攻にショックを受けて、「中国はいますぐプーチンと手を切るべきだ」という論文を発表したからだ。「いまこそ中国が再び西側諸国との関係を修復する好機到来だ」という、至極まっとうな内容だった。 だが、習近平主席とウラジーミル・プーチン大統領の「盟友関係」を鑑みれば、これは「御法度」だった。瞬く間に、論文とともに胡偉博士も「消されて」しまった。 それから2年半近くが経ち、胡偉博士が再び、今回の深圳の事件で声を上げたのだ。「いまやすでに自己反省をせざるを得ない時代が到来した」と題された長文の核心部分のみを訳す。 <他国でも外国人を排斥する現象が起こっているだって。だが他国と比べて、どうのこうのと言うのはよくない。「腐らせるがままに放置しておくこと」はよいことではないのだ。 国家はやはり、対外開放が必要だと認識するのみだ。たとえ他国でも起こることだとは言っても、この種のことをほしいがままにさせておいてはいけない。一言で言えば、「腐らせるがままに放置しておくこと」を努めて減らすべきで、そうでなければ大国として復興する気風に合わない。(中略) 特に深圳の今回の案件は、10歳の無辜(むこ)の児童に対するものだ。性質は極めて悪辣だ!(中略) どんな国でも外国人傷害事件というのは起こる。それ自体は奇怪なものとは言えない。問題は、どんな動機が出てくるのかだ。一種の盲目的な外国敵視、外国排除の行為なのかどうかだ。(中略)
「中国の国家と民族全体にとって、百害あって一利なしだ!」
「今回の殺人者とあなたは無関係だなんて思うべきでない。殺人者はまさに、あなたの未来の一部を殺したのだから」――深圳の児童刺殺事件を含む連続3件起こった日本人、アメリカ人を傷つける案件に直面し、私も深くそう思う。 現在、国内の一部の人々は、故意にかそうでないかは知らないが、中国国内で外国人を傷つける事件を、地面を洗い清めたり、花や木を植えかえるようなものだと混同して見ている。そんなことをやっていては、われわれはさらに自己反省能力を失ってしまう。中国の国家と民族全体にとって、百害あって一利なしだ! 現在すべきことは、一罰百戒とするよう呼びかけることだ。目先の利益のみ増やそうという狭隘(きょうあい)な民族主義の台頭を抑え込み、元を正しく清め、正しく視聴し、開放包容、対外友好の世論、雰囲気と国家の印象を形作ることだ。 そのため、問題の焦点はこうした事件が偶発的なのかどうかではない。偶発的だろうが、そうでなかろうが、もしも外国人に対する、とりわけアメリカ人と日本人に対する無差別な傷害が目的だとしたなら、全社会的な高度の警鐘を鳴らすべきだ。いまやすでに、自己反省をしなければならない時なのだ!> まさに中国の知識人の魂を込めた一文で、こちらも感銘を受けた。問題は、こうしたまっとうな知識人が、いまの中国社会から排除されてしまっていることだ。 ともあれ、もともと砂上の楼閣のようだった日中関係を吹き飛ばしてしまった今回の凶悪殺人事件。引き続き行方を注視していきたい。(連載第748回)
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)