没後39年 世界でカバーされた「上を向いて歩こう」 坂本九さんの“オリジナル版”がベストだと思う理由
米国より英国での発売が先
1962年、この歌は英国でも発売された。米国より先だった。英国のレコード会社社長が日本に出張した際、レコードを持ち帰った。その中に「上を向いて――」が含まれていた。 英国版は歌のないインストルメンタル版。タイトルは印象に残った日本の料理「SUKIYAKI」になった。インストゥルメンタル版は英国のヒットチャートで上位に食い込んだ。 インストルメンタル版は米国のラジオ局も流した。それがきっかけとなって坂本さんの歌が入った本家版もラジオで流れるようになった。リスナーが私物のレコードをラジオ局に持ち込んだのである。 坂本さん版は全米で大人気となった。このため東芝はキャピタルレコードと連携し、1963年5月3日に坂本さん版を「SUKIYAKI」のタイトルで発売する。 すると同年5月11日には有力音楽専門誌・ビルボードのヒットチャートの79位にランクイン。その後も右肩上がりで順位は上昇し、同年6月15日から3週連続で1位となる。日本の歌で初の快挙だった。年間チャートでも10位に入った。 英語詞を付けて再録音することも可能だったが、そうしなかった。歌詞の内容を知らしめることより、坂本さんのオリジナルの歌を生かすことが優先された。成功した理由の1つだろう。 翌1964年には全米での売り上げが100万枚を突破し、坂本さんにゴールド・ディスクが贈られた。ザ・ビートルズやボブ・ディランなどが欧米音楽界に新しい風を吹き込んでいるころだった。 世界中のアーチストがカバーしているが、やはりベストは坂本さんによるオリジナル版に違いない。木琴で始まる前奏を聴いただけで胸が締め付けられる。 坂本さんが生きていたら82歳。その死が悔やまれてならない。 高堀冬彦(たかほりふゆひこ) 放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。 デイリー新潮編集部
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