『つんドル』穐山監督×深川麻衣×バービーのガールズトークが炸裂!「アラサー女子の生態、そのまますぎる」
仕事なし、男なし、貯金なしの崖っぷちアラサーの安希子(深川麻衣)が、友人の勧めで56歳のサラリーマン"ササポン"(井浦新)と奇妙な同居生活を送る、まさかの実話を基にした最新作『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(通称『つんドル』)が11月3日より公開中の穐山茉由監督にフォーカスした特別連載。 【写真を見る】安希子を惑わす“沼男”浩介。意外と男性からの評判はいいという!? 第4回目は、主演を務めた深川、お笑いコンビフォーリンラブのバービーとの鼎談。本作への感想や舞台裏からプライベートの話まで、似たような経験をしてきた女性たちならではの、共感しかないガールズトークをたっぷり聞かせてもらった。 ■「リアルなアラサー女子の生態を全部受け止めたいと思いました」(穐山監督) ――バービーさんは、過去の自分を見ているようで胸が痛かったそうですね。 バービー「やっぱり、アラサー当時は心のどこかに寂しさとか焦りみたいな感情があって、それが着火剤になってめちゃくちゃ暴走していたんだと思います(笑)。『つんドル』でも、無理だってわかっているのに、ホテルに誘う場面とか。『あ、やったことあるな私』みたいな。アハハ(笑)。イタい…。身に覚えがあるから『やめてくれ~!』って感じでした」 ――深川さんは、安希子をどんな気持ちで演じていましたか? 深川「普段、人には見せないような汚い姿や、ボロボロになっているところも、スクリーンを通してちゃんと伝わるくらいさらけ出さないといけないなと思って演じていました。重すぎず、軽すぎず、そのあたりの塩梅を監督と相談して調整しながらやっていましたね」 穐山「ちなみに、脚本開発の段階で男性スタッフやプロデューサー陣は、安希子を惑わす浩介について『すごく誠実でいいヤツだよね』と言っていて。私と脚本家の坪田さんは、『浩介はまあまあなクズ』という認識だったので、男女で意見が割れたのがおもしろいなと思っていて。それもあって浩介は、観た人によって違う印象を受ける人物にしたつもりなんですが、バービーさんは浩介のことをどう感じました?」 バービー「私は『クズ!』とまでは思わなかったんですけど、『こういうヤツめちゃめちゃいるよな』っていうリアルさはすごく感じました。『なんでこういうことが平気でできちゃうんだろうな』っていう、一見“ただのいいヤツ風”の、罪な男の人っていますよね」 穐山「『大切だから』と言って、ちゃんと振ってくれずに変につなぎ止められている感じが、実際に似たような経験がある人にとっては、結構グサグサくるみたいで。そうかと思えば、『なんで安希子が浩介にそんなに執着するのかわからない』という人もいるんです」 バービー「安希子が浩介とデートする時にピンクのコートを着て行っちゃう感じも、あれはあれでイタいというか。『好かれたい』っていう気持ちがダダ漏れなファッションで、見ていて『ウッ』ってなりました(笑)。 私も普段はバキバキに尖ったのを着ているのに、初デートの時は結構甘めの服を着ちゃっていたかもしれないって思い返したりして」 ――確かに、安希子のファッションにはその時々の心理状態が反映されている気がしましたが、監督はどんなことにこだわってセレクトされたのでしょう? 穐山「そうですね。アラサー女性のリアルをファッションでも表現したいと思っていて。安希子は見栄えを気にするタイプだから、誰かと会う時はものすごく着飾るんですけど、ササポンの家に行く時はリラックスした格好で。安希子の奮闘ぶりが服装でもわかるようにしたつもりです。バレていないと思っているのは自分だけで、実は周りにはバレバレなんですよね(笑)」 深川「私は、詰んだ状態の安希子が着ている、着古したTシャツに星柄のパーカーとニコちゃんマークのパンツを合わせた部屋着の、他人の目を一切気にしていない感じがめちゃくちゃリアルで好きですね。その辺に散らばっている服を適当に着ているから柄オン柄でうるさくなっちゃっているし、寒いから靴下も履いて…みたいな(笑)」 ■「安希子みたいに、メイクをしたまま寝ちゃうことだってあります」(深川) ――深川さんにも、安希子のようにメイクをしたまま寝てしまった経験がありますか? 深川「あります、あります! ヘトヘトに疲れて帰ってきて、スッて寝ちゃいそうになる直前も、もう一人の自分が『ちょっと! メイク落とさなきゃダメだよ!』って言っている声が聞こえてくるんですけど、『まあ、別にいいか』ってそのまま床で寝ちゃう日もあります(笑)」 ――(笑)。『つんドル』にはリアルなアラサー女子の生態が映っているということですね。 穐山「まさに、『つんドル』はそういうものを全部受け止めたいと思って作ったんです。 自分もそうだし、原作でも安希子は醜態をさらしているから。『みんなだって、そんな日もあるでしょ?』『だらしない部分も含めて自分なんだって、ちゃんと受け止めよ』みたいなことを伝えたかったので、深川さんにはできるだけいろんな顔を見せてもらいたくて。マスカラが落ちて汚くなった顔も、頑張ってやってもらいましたね」 ――安希子がうっぷんを晴らすように時々毒づくことに対しては、どう感じましたか? バービー「やっぱり、常に綺麗ごとばかり口にしていたら行き詰まりますよね(笑)。私にはむちゃくちゃ毒を吐き合える友達がいるので、悪口を言っている時は『いいよなあ、こういう空気』ってめちゃくちゃ気持ちがアガるんですが、 でもきっと毎日一緒にいたら2人してどんどんダークサイドに落ちていくんじゃないかと思うので(苦笑)。たまに会って、理不尽な世の中に悪態をつきながらお酒を飲む時間が楽しいかなというくらいの感じです」 深川「安希子って、外面はすごくいいんですが、表には出さない心の声で観客の皆さんにバレちゃうんですよ(笑)。でも『少しだけ呪われろ』っていう安希子の悪口は絶妙ですよね!」 穐山「安希子が吐く毒みたいなものって、あまりやりすぎてしまうと逆にちょっと近寄りがたい感じになってしまうので。そこまで振り切りすぎないで、『ちょっと耳が痛いな』『私にも心当たりがあるかも』っていう落としどころにするリアルさがすごく大事だなと思って。原作にもある、そのあたりの温度感はめちゃくちゃ大切にしましたね」 バービー「私には毒を吐き合うと友達とは別に、えげつないゴシップ記事のURLを送りつけ合えるライターの友だちもいるんです。心の奥底にあるドス黒~い気持ちに共感してくれて、一緒に笑い飛ばせる仲間がいると、『ああ、よかった!』って思いますよね」 穐山「いまって、モヤモヤすることがあっても公にはなかなか言いづらいじゃないですか。別に誰かを傷つけたいわけじゃないのに、SNSでつぶやくと変に切り取られちゃったりもするし。世の中にはいろんな考え方の人がいるので、ちゃんと共通言語を持っているコミュニティの中だけで発散するっていうのは、確かに有効な手段かもしれないですね」 ■「新しい関係性を築ける可能性を、気づかせてくれてありがとう!」(バービー) ――深川さんは、世代を超えた交流って日ごろありますか。 深川「私の場合は、お仕事で先輩方と一緒になる以外は、やっぱり同世代が中心なので、世代を超えたつながりは羨ましいなと思いますね。ササポンのことを“妖精”に例える方が多いんですが、向こうもそこまでこっちに興味があるわけでもなく、ちゃんと一線を引いた上で、対等に話せるような間柄になれる年上の方とは、普段なかなか出会えないので」 バービー「私はプライベートでよくスナックに行くので、50~60代くらいのおじさんたちとは割となじみがあるかな。年上のママがいるスナックを探して、初見で入ったスナックでも、常連っぽいおじさんに『デュエットしませんか?』って、お誘いするのも好きで(笑)。年齢を重ねても楽しそうにしている人たちの姿を見ているとめちゃくちゃ勇気をもらえるし、楽しみながらもそれぞれに人生があって、それがちゃんと歌に出るんですよ」 深川「おもしろそう! バービーさんみたいにスナックに行けば、ササポン候補に会えるかもしれないですね(笑)」 ――ササポンと安希子の関係は、家族でも恋人でもなく、「遠い親戚の大切なお嬢さんを預かっている感覚だ」とササポンも言っていました。傷ついたアラサー女性の心に、ある距離感を保ちながら寄り添う存在としてのササポンについては、どうご覧になりましたか? バービー「いまの時代は、『家族以外の人と家族的な関係を築いたっていいじゃない』というゾーンに入りつつあるから、すごくいいなとは思うけど、私が『モテたい』とか『売れたい』とかでギラギラしていた20代のころには、その考えが社会にもまだあまりなくて。私自身もそういった先入観みたいなもので割と凝り固まっていて、やっぱりひとつ屋根の下で一緒に暮らす相手は恋人か家族だけだと思い込んでいた節がありました。なので、今回の『つんドル』のような映画だったり、日々社会の価値観の変化に触れたりするにつれて、『ああ、あの頃は、自分で自分を縛り付けて苦しんでいたんだな』と思うようになって。『新しい関係性を築ける可能性を、気づかせてくれてありがとう!』という気持ちです」 ――安希子としてではなく、深川さんとしては、この2人の関係性はどう映りましたか? 深川「ササポンの前では安希子は自然体でいられるというか、割となんでも話せる相手なんですが、『あ、私ってこんなふうに思っていたんだ!』みたいに、口に出すことで初めて自分の本当の気持ちに気づくこともあるじゃないですか。ササポンから返ってくる言葉って、人生を生きていく上でも大事にしたいと思えるくらい結構壮大で、安希子だけじゃなく私自身にもすごく響いたんです。『つんドル』のタイトルを見て、『えっ!?』と驚かれる方もきっとまだまだ多いとは思うのですが、恋愛関係に囚われずに性別や年齢の垣根を超えて理解し合える関係性が、今後もっと当たり前になったらいいなと思います」 穐山「私はこれまでも“名前のついてない関係性”を映画を通して描いてきたつもりなんですが、安希子とササポンも、法律や肩書といったものに何も縛られてはいない関係性だからこそ、必要とする時にふと寄り添ったり、自然にスッと離れたりすることもできるんですよね。恋愛関係だけじゃなくて、この2人の間だけに成立する特別な関係性みたいなのがあってもいいと思うし、そういった関係性を受け入れられる世の中になってほしい。『つんドル』もその1つのケースとして観てもらえたらいいなと思いますね」 取材・文/渡邊玲子