宇多田ヒカル「First Love」が古くならない理由。発売から25年、Netflixドラマを機に若者からも支持
「First Love」が“古く”ならないのはなぜか?
折しも当時は“歌姫(ディーヴァ)”ブーム。ヒットチャートにはR&Bテイストのバラード曲がランクインした時代です。「First Love」をそのトレンドの中に位置づける向きもあるでしょう。 けれども、宇多田ヒカルにはいずれとも異なる質感がありました。だからこそ、2024年のいまでも古びないのです。 改めて「First Love」の特質について考えてみたいと思います。
あえて「クールダウン」させる異質さ
Misia、小柳ゆき、安室奈美恵、華原朋美、少し上の年代になりますがドリカム(吉田美和)などの面々。彼女たちが90年代後半から00年代前半、バラード全盛の時代を支えたと言ってもいいでしょう。 時系列でいえば「First Love」はその先駆け的な一曲でしたが、宇多田の作風とパフォーマンスにはすでにそうしたトレンドを否定する要素がありました。 なによりも「First Love」は、ドライで涼やかなのです。歌い上げ、盛り上げるのではなく、頂点に達しようとするときにクールダウンさせる。この禁欲的な態度が異質なのですね。 J-POP特有の、サブドミナントコードからマイナーコードに落とし込む泣かせもない。ジャズやフュージョンからの影響が強いテンションコードや部分転調もなく、素直なコード進行で展開していく。
エポックメイキングなあの歌詞も…
この骨格にあって、宇多田ヒカルのボーカルが低音、高音のボリュームを均一に保っていた点も大きい。 <最後のキスはタバコのflavorがした> このエポックメイキングなフレーズも、彼女がきちんと低い声で明瞭に歌ったから聞き手に届いたのです。サビのオマケとしてのAメロではなく、冒頭から勝負に出るという気概が、曲の構造とボーカルパフォーマンスの両面に表現されていたわけです。 歌いだしで勝負ありのバラードということで、ヴァネッサ・ウィリアムスの1991年の大ヒット「Save The Best For Last」に似ていると感じます。書でいえば、筆を下ろす瞬間に全てが決まるので、わざわざこれみよがしに力を入れてはいけないタイプの曲ですね。