「あなたに腎臓をあげてよかった」67歳母の言葉に、新聞記者の息子が涙ぐんだワケ
● 日本国内での臓器提供数は なぜ世界最低水準なのか 一方で、遅々として進まない日本の臓器移植の現状を、身をもって知った。 臓器移植を受けたいと願い、日本臓器移植ネットワークに登録して待機している人は約1万6000人に上る。しかし、亡くなった方からの臓器提供数は例年100~150例程度にとどまり、国内の脳死患者からの臓器提供は、2023年10月に1000例を超えたばかりだ。それを可能とした臓器移植法の施行から実に26年かかった。平均待機年数は心臓で5年、腎臓は14年をそれぞれ超え、待機中に亡くなる患者も少なくない。 それゆえ、近しい人から臓器の提供を受ける生体移植が増え、合計で年間2000例を超える(2021年)。人口100万人当たりの脳死などによる提供者数は0.88人で、世界最低水準にある。スペインは46.03人、米国は44.50人、韓国7.88人に上り、日本は海外と比べると遠く及ばない(2022年調査)。あまりにも大きな差に疑問を覚え、「記者としてできることがあるのではないか」と臓器移植取材をライフワークに据えて、試行錯誤を重ねている。 とりわけ力を入れているのは、臓器移植に関わるさまざまな立場の方から経験を伺い、文章に紡いで社会に伝えることだ。事故で亡くなった女性の臓器提供を決断されたご家族、亡くなった方から心臓移植を受け、その心臓と“二人三脚”で人生を送る方、私と同じように生体腎移植を受けた腎臓内科医、国内の臓器提供数の少なさから海外渡航に望みを託した女の子のご家族、心臓移植がかなわず命を落とした男の子のご家族、臓器移植と関わりが深い移植医や救急医、脳外科医……。話に耳を傾けるたび、臓器移植が置かれた立場の厳しさを再認識する。
● 潜在的なドナー候補数を把握し 臓器移植の支援を広げることが重要 臓器提供は人の死が前提だ。「臓器を提供したい」との意思には亡くなった人、あるいはご家族の「病気で苦しんでいる誰かに、生きてほしい」との願いが込められている。 そんな「究極の優しさ」も、必ずかなえられるわけではない。 日本では、臓器提供体制の不備が深刻な問題として横たわるからだ。臓器提供が可能な医療施設は約900にとどまり、そのうち提供体制が整っている施設は約430にすぎない。それ以外の病院に運ばれて脳死状態となった場合、臓器提供を望んでもかなわないのだ。 そのような状態を打破する対策も進んでいる。臓器提供の経験が豊かな拠点施設が経験の少ない施設を支援する地域連携が一部で行われているのだ。 また、厚生労働省は2023年、患者と家族が体制の整っていない施設で臓器の提供を望んだ場合、別の施設へ転院搬送する仕組みを一部地域で試験的に導入した。同省はこれまで、搬送は患者への負担が大きいため「控えるべき」との見解を示してきたが、ようやく重い腰を上げた格好だ。 また、脳死が強く疑われ、臓器提供の可能性がある患者の情報を、医療機関が拠点施設や日本臓器移植ネットワークと共有する体制作りにも前向きである。潜在的なドナー候補数を把握して国や日本臓器移植ネットワークが支援に動くことで、臓器提供の促進を目指す試みだ。いずれも軌道に乗り、早期に制度化されることを望む。 そして、臓器提供の意思を医療機関が掬いきれていないことも問題だ。脳死や心停止での臓器提供意思を確認することが必須ではなく、入院する病院や医師の裁量に任されているのだ。病院と医師にかかる負担があまりにも大きく、意思を確認しない例も少なくない。