私用で有給休暇を取ったら上司に怒られた!パワハラになる?【令和時代のパワハラ最前線】
「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしない、されないから関係ない、と思っていても、不意打ち的にパワハラに巻き込まれることがある。自分の身を守るためにもぜひ読んでおきたい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。 ● 「病気のとき以外は休んではいけない」と思っていませんか? 有給休暇を使って休みを取ろうとしたら、上司から嫌味を言われて嫌な思いをした。そんな経験のある方もいるでしょう。 逆に、管理職の方の場合は、繁忙期に部下が有給休暇を取ろうとして、つい「なんで休むの?」と聞きたくなったこともあるかもしれません。 働く人の中には「病気になったわけでもないのに、有給休暇の申請なんてとてもできない」という人もいます。 日本ではなぜか、権利として与えられている有給休暇を取得することにネガティブな印象が蔓延していますよね。 有給休暇を自分の好きなように取ることは、何か問題があるのでしょうか。 ● 「有給休暇」は「労働者に認められた法律上の権利」 まず、基本的なこととして、有給休暇は「労働者に認められた法律上の権利」です。 雇用契約でどのように定められようと、この法律上の権利を侵害することは許されません。 そのため、労働者はいつでも、どのような理由でも、有給休暇の権利を行使することが可能であり、会社は特段の事情がないかぎり、この権利を制限することはできません。 また、労働者が有給休暇を取ったことを理由に、職場から雇用上の不利益を受けたり、職場環境が悪化するような対応を受けたりすることは、有給休暇の権利を間接的に制限するものであり、やはり許容されないと考えます。 ● 有給休暇を取ったことに対する「上司の嫌がらせ」はパワハラになる可能性も とくに、昨今では有給休暇の権利行使をより保護しようという社会的な流れがあります。 2019年4月の法改正によって、会社は各労働者に年5日以上の有給休暇を消化させる義務を負うことになり、会社側から「年に5日休むように」と言われている人も多いはずです。 もし年間5日の有給休暇すら取れていない状況であれば、それ自体が違法状態ということになります。 このように労働者の有給休暇の権利はとくに手厚く保護されています。 もし、労働者が休暇を取得したことについて、上司から何かしらの嫌がらせをされたということがあれば、それはパワハラの評価を受けやすいと考えます。 具体的な事例を見ていきましょう。 ● 正月明けに有給休暇を取ったら、叱責された。これってパワハラになる? 【事例】 30代男性。正月明けに休みを取り、土日をつなげて休んだ。休み明けに出社すると、社長に呼び出され、「正月明け早々に休むなんておかしい」「お前が休んでいる間もみんな仕事をしているんだぞ」と叱責された。自分の担当分の仕事には支障がないのに、叱責されるのは納得がいかない。承認を出した上司も巻き添えになって怒られた。 【解説】 まず、原則論として有給休暇は労働者の権利であり、いつ、いかなる理由でも権利行使可能です。 そして、有給休暇の権利を行使したことにより仕事に差し支えが生じるかどうかは、会社が時季変更権を行使するか否かの判断で検討すべき問題であり、労働者が自ら検討すべき問題ではありません。 そのため、有給休暇を取得した結果、たとえ仕事が停滞してしまったからといって、ただちに労働者側に責任があることにはなりません。 本件のようなケースで、上司が部下の仕事の状況を的確に把握した上で、時季変更権を行使せずに有給休暇を取得させたのであれば、社長から部下への叱責が適切ではなく、叱責の程度によっては、パワハラに該当する可能性はありえます。 しかし、仕事がたまりにたまっているのを労働者自身がわかっていながら、「仕事に支障はない」などと不適切な説明をしたりして有給休暇を取得する行為はどうでしょうか。 こういった場合は、「労使間の信頼関係を傷つける行為である」という見方はありえます。 そのため、休むと業務に大きな支障が出るとわかっているのに、自己判断で休みを取った部下に対して、「有給休暇を取得する際にもっと配慮してほしい」と上司が注意することが、ただちに問題となるとは思われません。 また、社員側が自分の状況を上司と共有したり、相談したりせず、半ば仕事を放り出すような形で有給休暇を取得していたような場合についても、会社による叱責や注意指導はある程度は許容されます。 その場合は、パワハラになる可能性はかなり低くなるように思われます。 ※『それ、パワハラですよ?』では、ハラスメントかどうかがわかりにくい「グレーゾーン事例」を多数紹介。部下も管理職も「ハラスメント問題」から身を守るために読んでおきたい1冊。 [著者]梅澤康二 弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員) 2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。
梅澤康二