「伊東に映画館を作ろう!」37年ぶりに映画館を復活させるまで
さんさんと降り注ぐ伊豆の日の光と、潮の香りと共に吹き込む海風を浴びて、梅澤さんは、ゆっくり、ゆっくりと普段の生活を取り戻していきます。体調が少しずつ良くなってくると、再び仕事への意欲も湧き上がってきました。そして「映画を観たい」「映画に携わりたい」という気持ちもよみがえってきました。 しかし、伊東のまちには、映画館がありません。どうしても映画を観たければ、およそ1時間半をかけて、沼津まで足を運ばなくてはなりませんでした。 「観たい映画がすぐ観られるって、今まで、なんて恵まれていたんだ!」 そう思った矢先、梅澤さんは、テレビで「遊びに行く場所がないんです」と話す地元の中学生や高校生の声を耳にして、胸を痛めます。一方でお父様が、起業・会社を興す人を行政がサポートしてくれる仕組みがあると、アドバイスしてくれたことで、胸に秘めていた2つの思いが結びつきました。 「地元の皆さんに喜んでもらえる娯楽の場所……伊東に映画館を作ろう!」
今年4月、そう決意した梅澤さんは、さっそく行動を起こします。当初、伊東駅近くの商店街「キネマ通り」にちなんで、その周辺で物件を探しますが、なかなか予算に見合った、映画館にふさわしい場所が見つかりません。しかし、郊外の国道沿いに、かつては病院だった手ごろな物件を見つけることが出来ました。 さあ、場所が決まると、上映できる映画を探さなくてはなりません。ただ、梅澤さんは、映画の製作経験はあっても、映画館の運営はゼロからのスタート。思い切って、配給会社に「どうしたら映画を上映できますか?」と問い合わせました。梅澤さんの映画へのアツい思いの前に、どの会社も丁寧に教えてくれました。 映画館の内装工事も自力で取り組み始めると、話を聞いた学生時代の仲間たちが、手伝いに来てくれました。9月に入ると準備に追われて、久しぶりの徹夜作業が続きます。でも、夢に見た映画館の完成を前に、不思議と力が湧いてきました。 そして迎えた9月14日、「金★シネマ」オープンの日。 初回の上映作品、宮沢りえさん主演の2016年の映画、「湯を沸かすほどの熱い愛」は、全部で16席中14席が埋まる、上々の滑り出しとなりました。 「映画館を待ってました!」 「映画館を作ってくれてありがとう」
上映後、作品を観た方は、映画の感想と一緒にそんな言葉をかけてくれました。梅澤さんは、心から「よかったぁ」という気持ちが溢れるのを感じながら、こう話してくれました。 「普段の暮らしから遠くないところに、映画館があることが大事なんです」 湯のまち・伊東を支える地元の方に長く愛してもらえる映画館を目指して、梅澤さんの新たな人生の、開演のブザーは鳴り響いたところです。