まるで“審神者の研修”のような展示の数々 心ときめく科学未来館『刀剣乱舞』特別展レポート
特別展「刀剣乱舞で学ぶ 日本刀と未来展‐刀剣男士のひみつ‐」が、7月10日から10月14日まで東京・日本科学未来館で開催されている。 【写真】審神者の心をときめかせる「刀剣乱舞で学ぶ 日本刀と未来展」の展示内容 本展は、刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞 ONLINE』をはじめ、アニメ・舞台・映画など多種多様なメディア展開でも人気を博す『刀剣乱舞』に登場する仲間たちと、日本刀を通して日本が現代に紡いできた文化を「科学」と「エンターテインメント」で学ぶというコンセプトのもと展開される特別展だ。 本稿では、7月9日に行われた開会式の模様と、メディア先行内覧会の体験をレポートする。 日本科学未来館副館長の伊藤洋一氏は本展について「日本刀について学べるのはもちろんのこと、現在まで受け継がれてきた日本独自の技術や歴史や文化、様々な知恵についても知ることができる企画」とし、「未来館で開催するにあたり、デジタル技術を活用した体験型の展示、最新の科学技術を活用した日本刀の観察・分析する研究も紹介している。今までに例のない展覧会であることを実感していただけると思います」と、日本科学未来館ならではのアプローチに自信を見せ、「現代に生きる我々一人一人が、未来に何を伝え継承していくのかを考えるきっかけとなれば幸せ」と語った。 『刀剣乱舞』原作プロデューサー・でじたろう氏(ニトロプラス 代表取締役小坂崇氣氏)は、『刀剣乱舞 ONLINE』宣伝隊長「おっきい こんのすけ」と共に登壇。 日本刀の魅力について「日本人と共にあり、これからもあり続けるということ」と語り、「日本刀は歴史をどう見てきたのか。そして日本刀はこれからの未来をどう見るのかという観点、発想から『刀剣乱舞』『刀剣男士』が生まれました」と、ゲーム誕生の原点を明かす。 ゲームに登場する『刀剣男士』のモチーフとなった刀剣は全国各地に残っており、博物館や美術館とのコラボレーションはゲーム開始から9年で133回と驚異の数字を数えるという。その活動のなかで「我々が日本刀に対してできることは、刀剣男士を通じて日本刀を興味を持っていただくことだと思い、もっと多くの方に日本刀の魅力を知っていただきたいと本展を企画しました」と今回の企画が生まれた経緯を説明。「人ひとりの生きる時間は短いですが、物や技術、そして想いは未来につなぐことができます。みなさんで力を合わせて、日本刀を未来に継承していきたいと思っております」と、今回の展示を日本刀の未来へつなげたいという熱い想いを語った。 『刀剣乱舞 ONLINE』開発プロデューサーの伊藤正和氏(EXNOA)は、「ゲーム内で行う『鍛刀』だったり、さまざまなものを実際に目で見て触って疑似体験することができる」と、ゲームを楽しんでいるプレイヤーに対して本展の魅力を訴求。「日本刀の歴史や技術、文化をわかりやすく学ぶことができるので、どの世代の方にも楽しんでいただけるものになっていると思います。歴史を学ぶことの楽しさや大切さを再認識するきっかけとなれば」と語った。 続いて本展のプロモーションビデオが上映された。『刀剣乱舞』にはさまざまな管狐のキャラクターが存在するが、今回の展示ではオリジナルナビゲートキャラクター「きゅうのすけ」が案内してくれる。きゅうのすけはかっこいい刀博士を目指す管狐で、声優・高山みなみ氏がキャラクターボイスを担当することが初公開となった。 さらに特別ゲストとして、日本刀コレクターとしても知られる船橋市非公認キャラクター梨の妖精「ふなっしー」も登場。一足先に展示を見たというふなっしーは、「とにかく日本刀のことが分かる形で展示されている。作り方、作りこみ、日本刀のことを学ぶ機会ってないから、刀に触れたことのない人も楽しんでもらえる!」と展示内容に太鼓判を押す。いまや70振りものコレクションを所有しているというふなっしーだが、日本刀の魅力のひとつはロマンだと語り、「みんなが次の世代につないできて、いまふなっしーが持っている刀はふなっしーの手にわたっている。いろんな人がこの刀を手にしていろんな時代を駆け抜けたことを考えると感慨深いものがある」「刀を大事にして、自分のものという意識ではなく、日本の文化遺産として、ふなっしーの刀を次の世代の子どもたちへつないでいくという気持ち」と、今回の展示とふなっしー自身の想いが共通していることを元気いっぱいに語り、フォトセッション、登壇者全員によるテープカットと続いて開会式を終えた。 特別展会場の入口には、現時点で刀剣乱舞に登場するすべての刀剣男士が、短刀・脇差・打刀・太刀といった刀の種類に分けて集合したイラストが大々的に張り出されている。入口でポケットサイズのパンフレットを手渡されるが、これは後々必要となってくるアイテムだ。 会場を入ると本展の概要や「御供散歩 きつね装備」のイラストが出迎える。きつね装備の男士たちは足元に小さく刀帳順にいるので、見逃さないようにチェックしよう。 次の部屋に入ると、今回のオリジナルキャラクター・きゅうのすけが本展の企画を説明してくれる。実際、会場には要所要所に『きゅうのすけの日本刀学習ノート』が張り出されており、展示のあちこちできゅうのすけの説明を見ることができるので、こちらも欠かさずチェックしたい。 キュートなきゅうのすけに研究心が刺激されたところで、まずは第1の間『日本刀ってなに?』へ。 ここでは日本刀・刀剣の基本的なことが学べる。そもそも「刀剣」とは何か? 特徴や成り立ちといった初歩的な知識や、時代による形の変化をパズル形式で知ることができる。日本各地に散らばる刀工についても、刀剣男士のイラストと共にマップに描かれており、お気に入りの刀剣男士ゆかりの土地やその関わりをあらためて確認してみるのも楽しい。刀剣男士のパネルと共に戦国武将ゆかりの刀もクイズ形式で紹介されていて、知識がなくても親しみを持てる工夫がなされていた。 続いてのゾーンは第2の間『日本刀ができるまで』。ここでは実際に日本刀が造られる工程を映像や体験を通じて知ることができる。木炭や玉鋼といった審神者(=ゲームプレイヤー)にはおなじみのアイテムも展示され、実際に触ることも可能だ。 鍛錬、焼き入れ、研ぎという工程を体感できるため、日課の鍛刀がどのように行われているのか、実際に体験することで自身の本丸にやってきた刀剣男士により深い思いを抱くことができるのではないだろうか。 ここでは水心子正秀、源清磨、南海太郎朝尊といった新々刀の刀工をモチーフにした刀剣男士たちのパネルも展示されていて、日本刀ができるまでを見守っている。 第3の間『日本刀を観察』は、本展で一番大きなエリアだ。さまざまなアプローチで刀剣が展示されており、実際に日本刀を触ることもできるとあって、本展において一番の目玉と言っても過言ではないだろう。 「日本刀の楽しみかた道場」では、三日月宗近や山姥切国広を例に、本物そっくりの模造刀を手にしながらパーツや鑑賞方法などを知ることができる。 日本最大級の日本刀「祢々切丸」の重さや長さを体験できるコーナーもあり、刀剣男士・祢々切丸もそのチャレンジを見守っている。筆者も挑戦してみたが、驚きの体験であった。刀剣の大きさを比較したり、ガラスケース越しに柄を持って本物の日本刀を持ち上げることができるコーナーもあり、刀剣がよりリアルに、そして身近に感じられる。科学的なアプローチでの研究についての展示もあり、手入れについての動画も見ることができ、見識が深まること間違いなしだ。 円柱型のケースが回転する展示では、あらゆる角度から日本刀を観察することができる画期的な方法が採用されており、日本刀初心者はもちろんのこと、これまで刀をたくさん見てきた人にとっても新しい発見が得られるだろう。 続く第4の間は『日本刀を体感』のエリアだ。「天然理心流 試衛館」の師範の剣術の動きをモーションキャプチャーで計測し、刀剣男士の3D映像とかけあわせた映像は大迫力。加州清光が剣術を実践している映像によって、刀剣男士が如何に刀を振るい戦っているのかが視覚的に理解することができる。 さらに自ら敵を倒す体験ができるゾーンでは、鶴丸国永が親切丁寧に戦い方をレクチャーしてくれ、体感的に刀剣男士の戦闘を疑似体験できる。 次のエリアは、今回の特別展で初お披露目となった『作刀プロジェクト「今剣」』の展示だ。源義経の守り刀であり自刃した短刀という逸話を持つ「今剣」を、刀匠が想像して作刀したもの。エリア内では刀剣男士・今剣が今回生まれた「今剣」について想いを込めて語っているボイスが流れており、刀剣乱舞で今剣に触れたことのある人にとっては心を揺さぶられること間違いなし。今剣の言葉に耳を傾けながら、刀の美しさと作刀の過程をじっくりと味わえる。 最後の間は『日本刀と未来』。AIを使ったオリジナル刀剣男士を生み出すコーナーは内覧会でも大人気だった。 入口で渡されたパンフレットに、自由に刃文を書き込む。タブレットにその刃文を読み込ませ、お気に入りの刀剣男士を入力。刀の種類、好みの色を選択するだけで、「オリジナル刀剣男士」を作ることができる。筆者はその日近侍にしていた薬研藤四郎を選び、短刀、水色を選択した。 会場に設置された大きなモニターにオリジナル刀剣男士が映し出されると、何とも言えない喜びが生まれる。御供散歩で実装されたフォルムは何とも言えずかわいらしく、愛着が湧くのでぜひ体験してみてほしい。 最後には、刀剣乱舞や本展関係者の「未来へつなぎたいもの」が展示されている。出口には三日月宗近のパネルが設置されていて、見送ってくれるのもうれしい。 今回の展示は、審神者としては刀剣男士を知る上で知っておきたい知識ばかりで、審神者に研修があるのならこんな感じなのでは? と、ゲームをプレイする者にはかなり心ときめく展示となっている。開会式で語られた「子どもたちや未来につなげたい」という想いが反映されているので、家族連れや友人同士で行くのもおすすめだ。どんな人が見ても楽しめる内容なので、刀剣乱舞や日本刀の知識がなくてもアミューズメント感覚で楽しんでみてほしい。たくさんの技術の継承・研究を積み重ねてきたからこそ、刀剣が長く存在し、人々を魅了する。そしてそれは未来へつながっていくことが、実感できるはずだ。
草野英絵