「ずっと真面目に働いてきたのに…」無年金で“生活保護”を受けざるを得ない日本人・在日外国人「それぞれの事情」とは【行政書士解説】
在日外国人の無年金問題と生活保護
もう一つ、深刻なのが、日本を生活の本拠とし、日本国民と同様の税金等の社会的な負担を負っている在日外国人(定住外国人)の無年金問題です。年金を受け取れない結果として、生活保護に頼らざるを得なくなっている人がいるということです。 この問題の背景には、日本の公的年金制度の設計上の不備があります。 1959年に制定された日本の国民年金法は、被保険者を「20歳以上60歳未満の日本国民」と定めていたため、定住外国人は、日本社会で働く一員でありながら、公的年金に加入したくても加入できませんでした。 その後、1981年に日本政府が「難民の地位に関する条約」(難民条約)を批准し、1982年に発効しました。これにより、日本政府は「難民」と認定された者に対し、国民と同一の社会保障を与える義務を負っています。なお、この条約は直接には「難民」を対象としていますが、日本に居住して納税等も行い、難民よりも日本国と密接なかかわりを持っている定住外国人は、当然に対象となりました。 それに伴い年金の国籍条項が撤廃され、定住外国人も支給対象となりました。しかし、25年以上保険料を払わなければ年金受給資格は得られなかったため、1982年の時点で35歳を超えていた人には救済措置が取られず、支給対象から排除されることになりました。 1986年に、基礎年金導入を骨子とする年金制度改正が行われ、年金加入期間が25年に満たない専業主婦などを救済する措置がとられましたが、定住外国人のための救済措置はとられませんでした。 こういった高齢の定住外国人は、若いころから働き詰めで税金を納め、日本社会に寄与してきたというのに、年金を受け取れず、生活保護に頼らざるを得ないという現実に直面しているのです。 日本の年金制度は、納めた額よりも大きな額を受け取れる仕組みです。特に厚生年金の場合は、本人と勤務先が半分ずつ保険料を負担するので、65歳から年金を受給して平均寿命まで生きた場合、自分が支払った年金保険料の総額を大きく上回る額を受け取れる計算になっています。 したがって、定住外国人の方が公的年金に加入できず、その代わりに自分で年金保険料の分だけ貯蓄し続けていたとしても、日本人であれば受け取れる年金の額を大きく下回ることになります。 その結果、中には、生活保護に頼らざるを得なくなってしまったという人も出てきているということです。 なお、定住外国人に対する生活保護の適用については、日本政府は難民条約批准より前から、通達等によって必要な外国人に対し、事実上保護を与える運用を行ってきています(厚生労働省「生活保護実施要領等」参照)。 ここまで述べてきたように、日本人であるか定住外国人であるかを問わず、本人の自己責任・自助努力ではどうにもできない事情によって、最後の命綱として生活保護に頼らざるを得なくなっている人たちが、日本社会には大勢いることを忘れてはならないと思います。
三木 ひとみ
【関連記事】
- 【第5回】「生活保護世帯の子」も“大学”へ行けて「バイト」もできる…近年充実した「公的サポート」の中身とは【行政書士解説】
- 【第4回】DV男から逃げた19歳女性、“所持金数百円”で「生活保護」申請も… 社会復帰への「一歩」を踏み出すまでに味わった「困難」とは【行政書士解説】
- 【第3回】「生活保護の受給要件をみたしているのに…」相談者の7割近くが申請断念 行政の“水際作戦”「実態と背景」とは【行政書士解説】
- 【第2回】生活保護「家族に“扶養照会”しないと受けられない」は“ウソ”…行政に課せられた“正しい運用ルール”と「どうしても知られたくない場合」の対処法【行政書士解説】
- 【第1回】「3度の食事」にさえ困っているのに「生活保護」の申請が“却下”…なぜ? 制度にひそむ“落とし穴”とは【行政書士解説】