「なんてすてきなんやろう。まだまだおれはいかなあかんな」もっともっとテレビの世界が好きになった夢のような夜のこと【坂口涼太郎エッセイ】
夢みたいな幻みたいな夜はつづく
そのあとのことは夢だと言われても「やっぱりそうやんな」とすんなり納得できるのだけど、たぶん、幻でなければ、カラオケに行きました。 なんと、大吉さんと華丸さんがスピッツの「ロビンソン」をお二人で歌ってくださり、私は、ていうかおそらくそこにいた全員がぐっときて、涙をこらえた。 これまで“お二人だけの国”で過ごしてきた“誰も触れない”時間や、その中で起きた出来事のことを私はテレビで見た以外なんにも知らないけれど、30年以上“手を離さず”、この歌を一緒に歌えるお二人の「絆」という言葉ではまったく足りないような、お互いを思いやる力強さと果てしなさによって“空に浮かんで宇宙の風に乗れる”ほどの“大きな力”に私は震えた。なんてすてきなんやろうと、人間ってすごいんや、いや、大吉さんと華丸さんがすごいんやと、「博多華丸・大吉」と「奇跡」は同義だと思った。 さらに、なんと藤井さんが一切手を抜かずに全力で私たちのために「ナンダカンダ」を歌ってくださり、私は全身でその波動を浴びて刻み込み、「享受する」とはいままさにこの状態のことやと言葉の真意をお手本のように私は体現していた。体現して感慨に耽っていたら、なぜかそのあとにも連続で「ナンダカンダ」が予約されていて、二度目は私が全力でカラオケのテレビの中で歌い踊る藤井さんと、そのテレビの前に存在する実像の藤井さんに向かって叫ばせていただきました。そうしたら藤井さんも歌ってくださり、藤井さんと合唱する形になり、藤井さんの声と私の声は境目がなくなってスピーカーから混然一体となって部屋と体を振動させ、音による振動なのか体から発生する震えなのかわからないけれど、テレビの前にいる藤井さんとテレビの中にいる藤井さんはシンクロしながら私に向かって、 なんだかんだ叫んだって やりたいことやるべきです あんたなんだ次の番は やりがいあふれるレースです と叫んでくださっていたその言葉の振動に私は奮い立ち、まだまだおれはいけるし、いかなあかんな、全然やり足りてないなと目を覚ました。二重になっている師匠からの振動と、一緒に踊ってくれている先輩方を追いかけて、私は私なりの形で私の番がくるように、やりがいあふれる人生のレースに参加して、叫びながら、震えながら、やりたいことを全力でやっていって、いつか師匠を、大吉さんを、華丸さんを、テレビを、世界を、人を、かつて無邪気にテレビを貪っていた少年Aがそうだったように、興奮で、喜びで、叫ばせることができるように、夢が叶う来世紀へまっしぐらに向かっていくのだ。なんだかんだ。てんやわんや。 文・スタイリング/坂口涼太郎 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/齊藤琴絵 協力/ヒオカ 構成/坂口彩
坂口 涼太郎