彬子女王殿下の留学生活の思い出「エリザベス女王陛下とのアフタヌーン・ティー」
現在、皇族としてのご活動だけでなく、日本美術史の研究者としても活躍される彬子女王殿下が、英国のオックスフォード大学マートン・コレッジに留学中の、2005年夏のある日のこと。 在英日本国大使館に、エリザベス女王陛下(2022年、96歳で崩御)からバッキンガム宮殿へのお招きの連絡があり、彬子女王殿下も、そのお話が来たときは、ほんとうに「えっ」といわれ、しばらく言葉が続かなかったそうです。 そしてその「女王陛下がお待ちの一室に通された」日の翌日、バッキンガム宮殿でのことを、指導教授にふとお話しになったところ、その教授は――。 ※本稿は彬子女王著『赤と青のガウン』(PHP文庫)より、一部を抜粋編集したものです。
「ギリシア彫刻のような端正な顔立ち」の先生と待ち合わせ
オックスフォード大学での私の指導教授、オックスフォードのJRことジェシカ・ローソン先生はとてつもなく顔が広い。彼女の紹介でお会いした2人の有名人についてお話ししようと思う。 私を自分の学生にすると決めたとはいえ、ジェシカは日本美術が専門ではない。そこで、彼女は2人目の指導教授として日本美術の専門家を紹介してくれた。コンタクトを取るようにといわれた相手は、大英博物館の日本セクション長であるティム・クラーク先生だった。 ジェシカはマートン・コレッジの学長になる前、大英博物館のアジア部の部長を務めていたので、クラーク先生とは旧知の仲であったことから頼みやすかったのだと思う。クラーク先生とはメールで何度かやりとりをし、ある日の午後に大英博物館でお会いすることとなった。 待ち合わせの場所に着くと、クラーク先生がいらっしゃった。ギリシア彫刻のような端正な顔立ち。ちょっと人を寄せ付けないようなぴんとした雰囲気が漂っている。あまりにも完璧な容姿と佇まいで、こんなことでもなければ私から話しかけることはとうていできそうにない、そんな感じである。 すると、「話すのは日本語と英語どちらがいいですか?」と、英語で質問された。「ここは英国なので」と英語で話すことをお願いし、先生とは英語で会話をすることになった。 先生は、私が研究したいテーマの説明を終えるまで黙って聞いてくれた。たどたどしい英語でなんとか説明を終える。 するとすぐに、「それだったら、大英博物館のアンダーソン・コレクションを研究してみたらどうですか。外国人のつくった日本絵画のコレクションとしてはもっとも古いものの一つだけれど、いままでほとんど研究されていないし、研究テーマにも合うと思いますよ」とご提案くださった。 先生のおっしゃる「アンダーソン」が誰なのか、このときはまったくわからなかった。でも、クラーク先生が指導教授を引き受けてくださったことと、面白くなりそうな自分の研究テーマにわくわくしながらオックスフォードに帰ったことをよく覚えている。